| 「CP#04」 「それでは2人の再会と我等との出会いを祝して、カンパーイ!」 夜になっても俺はまだ八神とカフェバーにいた。しかもオフィスにいた二階堂という名の 金髪の彼をはじめとするスタッフの面々が、俺達2人を包囲するように周りのテーブルを 占領している。 八神との会話が途切れた頃を見計らっていたかのように二階堂が現れたのだ。しかも俺に 広告モデルの仕事を携えて。仕事を求めていた身としては、降って沸いたような話だった から有り難いことこの上ない。で、結局夕刻まで引き止められ、さらに急遽催された飲み 会にまで付き合わされてしまったわけ。 そしたら情けないことに、俺はその飲み会の席で飲んだたった一杯のアルコールで、した たかに酔ってしまったのだった。 心地いいかすかな振動。俺がいるのは庵の車のナビシート。 夜も更けにふけて、アパートに送ってもらう途中である。 うつらうつらしている俺の耳にボソボソとした彼らの声が聞こえてくる。 眠気のほうが強くて、なんて言っているかまで聞き取れないんだけど。 「おやまぁ、よく眠ってるよ。あの程度の酒ですっかり酔いつぶれちまうとは可愛いもん だねぇ、京ちゃん。なぁ、八神。送るのはやめてこのままお持ち帰りしちゃおっか? おまえさんも実は京ちゃんのこと気に入ってるでしょ? ここはひとつ仲良くさー」 ………お持ち帰り? 仲良くナニをするって? 何言ってんだろうね? 「黙れ、酔っ払い。車から降ろされたくなければ口を閉じて、おとなしく座っていろ」 低く押さえ気味に、八神が二階堂の発言をたしなめているのが分かる。でも言われた当人 はまったく聞いちゃいないようだ。 後部座席からは楽しげな含み笑い。 「まーまー。そんな照れなさんなって」 「照れてなどおらん! おい、草薙。アパートに着いたぞ。そろそろ起きろ」 「……ん…んー」 八神が声をかけながら肩を揺らしてくるのを感じてはいるものの、眠くてねむくてしょう がない。 シートの背もたれに体を預けたまま生返事していると、背と腿の下に腕が差し入れられて 強い力で抱き上げられた。 「ん。んん? 八神?」 唸って目を開ける努力を試みるが、でもやっぱり瞼が重い。 するとかすかな溜息ひとつ。 「もう寝ていていい。送りついでだ。部屋も分かっているしな」 上から八神の声が落ちてくる。二階堂に言っていた時よりはずいぶん優しげで安心した。 「じゃぁ……お言葉に甘えるよ」 心地よくて無意識に八神の肩にすりりっと頭を擦りつけた。いい香りがする。 「またずいぶんと大きな猫だな」 まーたそんなことを言うから…。 「俺は…、人間なんだ…から…な。まだなんか気になるんだったら今度脱いで…見せてやる」 「………酔いのせいとはいえ……。脱ぐときたか。面白い奴だ」 八神の声音から察するに、微苦笑を浮かべているような気がした。 俺がこの夜、覚えてるのはここまで。 二階堂がきょとんとしている。 「八神。なんの話だ、そりゃ?」 「寝言だ。それはそうとおまえもついてこい、二階堂。オレのかわりに呼び鈴ぐらい押せ」 「はいはい。わかりましたよ……って、あれー? 誰か出てきたけど。もしかしてあの黒髪 の男が京ちゃんの保護者?」 「………」 二階堂の問いに振り返った八神の視線の先。アパートの扉の前に蒼司が立っていた。 八神は無言でそこまで歩いて行き、差し出された腕に抱えた京の体をそっと預けた。 京を挟んで八神と蒼司が互いをじっと無感動に見合う。 先に口を開いたのは蒼司だった。 「君はたしか……。あの時は京を介抱して此処まで連れてきてくれたお礼もろくに言わずに 失礼した。また京が世話をかけたようだね。ありがとう、感謝するよ。なかなか帰ってこな いから心配していたんだが、君のところに行っていたのか」 「ああ。ここまで帰りが遅くなってしまったのはこちら側に責任がある。咎めないでやって くれ。それとアルコールは少量だったんだが、眠くなるタチのようだ」 「ハハハ…。そんな咎めるつもりはないよ」 そう言って蒼司が京を抱きかかえなおす。 それを見て八神は白ワインの入ったペーバーバックを見せ、「両手が塞がっていることだし、 なんなら部屋の前まで行くが?」 と低く申し出てみたが、蒼司は「大丈夫。部屋に友人がいるから」とやんわりと断った。 八神もそれ以上は言わず、それも渡して「ではここで失礼する。明後日にまた会おうと伝え てくれ」と、踵を返した。 その背に「伝えておくよ。ありがとう」という声と冷ややかな視線を感じながら。 運転席に戻り、イグニッションキーを回して車を発進させた。 アパートが見えなくなった頃、後部シートで黙り込んでいた二階堂が八神に話しかけた。 「八神。おれの美貌にはかなわないまでも、ルックスのいいあの男は京ちゃんの何?」 「従兄弟だそうだ」 二階堂のナルシーな物言いはあえて無視して、八神は前をむいたまま簡潔に答える。 「従兄弟? ふうん、従兄弟…ねぇ?」 「なにか気になるコトでも?」 「なんだかなー。おれ様が見るにあの従兄弟、おまえさんに向ける目は敵意がこもってたし、 京ちゃんを見る目は身内を見る目じゃない感じがしたんでね。あーあー。せっかくアイスマン と呼ばれるおまえさんにも愛の女神が微笑む時が来たようだなって思ったのにさっそく強敵現 るかー。がんばれよ」 「……この酔っ払いは何を言っているんだか。悪酔いし過ぎだぞ。つきあいきれん」 おしゃべりは終わりだとばかりにカーステレオのボリュームを上げて、八神はアクセルを踏み 込んだ。 「あら。よく眠ってるのをいいことに悪さをしちゃおうなんて考えてるのかしら? いけない お兄さま」 衣類を脱がしてベッドに横たえてやった京の肌に指を這わせ、探し物でもするかのような視線 を走らせていた蒼司が、背後からした女の声に顔を上げた。 いつからそこにいたのか、ベッドサイドのランプがぼんやりと点るだけの京の寝室のドアに、 プラチナブロンドの美女が艶のある笑顔で佇んでいる。 「覗き見はいけないな、マチュア」 「うふふ。故郷から呼び寄せたっていうこの坊やもさぞや綺麗なんでしょうね。見てみたいわ」 マチュアと呼ばれた女はベッド脇に来ると、身を屈めて眠る京の顔をうっとりと覗き込む。 蒼司も京に視線を戻した。 「させやしない。京の体にはまだ忌まわしい兆候もない。まだ間に合う」 「―どうかしらねぇ? 思うようにならないのが人の心。この先、坊やが誰を選ぶのか楽しみ」 「………………」 「あら、私ったら余計なことを言ったみたい。おやすみなさい、お二人さん。またね」 きつい視線を向けられて肩を竦めるが、グロスを塗った煽情的な口元は笑みを深く刻んだまま。 プワゾンの香りを残してマチュアは部屋を出て行った。 **************** 問1.このあと、蒼司さんはどうするでしょう? 1. 京の隣に潜り込んでフテ寝。 2. 眠る京の耳元で「私を愛するようになる」と朝まで延々と囁いて刷り込み作業。 3. ひそかに思いを遂げてみました。 それより蒼司サンに襲われるのが先か?庵の前で脱ぐのが先か? 考え中なところです。 「CP#4.5」 酔って寝入って送られて、目が覚めたのは翌日の昼過ぎ。 蒼司さんから受け取ったマグカップには、ミルク多めの熱いコーヒー。 俺は、いい香りと味に気分もシャンとしてきたところで、昨夜のことを詫びた。 「蒼司さん、昨日はごめん。俺、帰りが遅くなりそうだって電話入れる前に酔っちゃって…」 「ああ。よく眠ってた」 蒼司さんがくすっと笑って俺を見た。俺は肩を竦めて苦笑い。 「反省してます。これから外でアルコール飲むような時は、気をつけるよ」 「そうだな。たまたまだったのか、ほんとに弱いのかはわからないが、気をつけるにこしたことはない。 この町だけに限らないが、弱ったところに付け入る輩も少なくはないからね。…それはそうと、 彼が、八神が帰り際に『また明後日に会おうと伝えておいてくれ』と言っていたが?」 「あ。そうなんだ。俺、八神にもう一度会って、礼を言いたいなぁって思って訪ねたその事務所 から、広告モデルの仕事もらえることになったんだぜ。で、明日がその日」 「モデル? ………それはまた、突然なことだな」 「俺もびっくりしたんだけどさ。行ったオフィスでたまたま、そこのボスって人にも会ったんだ。 そしたら俺を気に入ってくれたらしくって。なんとかっていう衣料メーカーの広告モデルをやって みないかって。ほら、俺もなんか仕事見つけなきゃって思ってたところだし、八神も請けても大丈夫 だって言うから。この際、思い切ってやってみようかなって」 そう話す俺の顔をじっと見ている蒼司さんの様子にどこか険しいものを感じて、俺は少し不安になった。 「どうかした? 蒼司さんは俺がモデルするの反対?」 「いいや。そのモデルの仕事は、京がやってみようというのなら反対はしないよ」 「ほんとに?」 「ああ。やってみるといい。じゃぁ、モデルの仕事が終わったら京が買ってくれた白ワインで 乾杯しよう。部屋だし、安心して酔えるよ、京」 そう答える蒼司さんの顔には、いつもの温和な笑顔が戻っていた。 続くナリ。 ******** オ家ダカラッテ、安心シテ酔ッテハイケマセン。京チャン、騙サレナイデー!? back next |