「紅華楼夢想奇譚・五」 一方、華街を彩る妓楼のひとつ「四天楼」二階の一室には、馴染みの遊女・シェルミーと まだ禿を上がって間もないクリスに己の身に起きた不幸を朗らかに笑われ続け、すっかり 気分と口を、への字に曲げてしまっている男がいた。 嫌われて当然というような下卑た物言いをしたが為に、京から股間に痛烈の一撃を受けた 社である。 「そう笑うなよ、シェルミー、クリス。こっちはあの一瞬、マジで目の前真っ白になっち まったんだぜ?」 「あらン。それはからかい過ぎた、あなたが悪いんでしょ。少しは懲りなさいな」 そう言って軽くたしなめた遊女・シェルミーの両眼は、長く伸ばした前髪に隠れて見えな いものの、紅をつけた形の良い唇は常に艶やかな笑みを湛えていた。 「そりゃぁ…そうかもしんねぇが。可愛い顔してクソ生意気なこと言う京を見るとつい、な」 「あは。歪んだ愛情だこと。クリス、この先、こういった手合いには気をつけなさいね」 「はぁーい。でもそういう男は、けっこうもて遊び甲斐があるからね。退屈しないと思うよ」 まだ客をとったことのないクリスだが、その言葉には、物心つく前より華街で育ち、そこ に出入りする男達を見てきた己の心眼への自信に満ちていた。そして歳に見合わない冷や やかさを含んでいる。 「うへー!クリスはこえぇなぁ。ま、なんにせよ、京にはそのうち詫びをいれてもらうぜ。 手下共の前でああも恥かかされといて何事もなく済ませちまったら、俺様の面子にも関わ るからな。それに」 「あらあらぁー? 社ったら、急に熱くなっちゃってどうしたのぉ? 目つきわるーい」 ごろりとその場に仰向けに寝転んだ社の顔を、シェルミーが屈託ない様子で覗き込んだ。 「気にくわねぇ野郎が京のそばにいやがるのさ。たぶん、そいつはまだ、京のそばに居る」 それまでのくだけた調子とはうって変わり、天井の一点を強く睨んで低く唸るように呟く 社の様子に、怪訝な顔でシェルミーとクリスは顔を見合わせ、首を傾げた。 前項 目次 |