『八神さんちの家庭の事情』




恐るべきは八神の執念…というか庵の●か――。

またそこに人為的なものも加わったこともあるのだが、なにはさておき

庵と京の間に待望?の一子誕生。

宗家・草薙の血をも凌いで八神の血を色濃く受けたことを証明するように、赤みの

強い髪をはじめ庵を彷彿させる容貌をもって生まれた愛児は「緋々稀」と名づけられ、

3人はただいま八神家所有の一戸建てにて安穏とした生活を送っていた。



+++++ 1.お熱いのが好き +++++



すぐそばにあった温もりがそっと離れていくのを感じとって、それを追いかけるよう

に覚醒がはじまる。 まだ夢と現実の狭間に意識がたゆとう中で、

庵はかすかであったが衣擦れの音を捉えて薄目を開けた。

時計を見るまでもなく室内の暗さからいってまだ起きる時間ではないのだが。

「…………」

薄闇の中。

重い瞼をゆっくり上げるとベッドの端に腰掛けている京の背中が映った。

傷らしい傷ひとつない滑らかな肌。 脇腹や腕や胸元といった部位には"格闘家"の身

にはつきものな傷痕がいくつか名残をとどめているのにだ。

庵は京の決して戦う相手に背を向けない、背後を取らせない気質や誇り高さを

感じさせるこの体が好きだった。

「…………」

ぼんやりと眺めているうちに京がTシャツを被ってしまったが、その背の中央を

走る窪みにどうにも触れたくなって手を伸ばした。

「んあぁ〜ッ?! いきなりなにすんだよ…ん、わははッ、くすぐって―!」

Tシャツの裾から忍ばせた悪戯な指は背筋を下から上へ、逆に上から下へとツッとなぞ

るように辿り、スッとそれたかと思うと今度は腰をワシ掴んで揉み込むように動く。

ゆえに京はププッと吹き出して身悶えしながら庵の上に倒れ込んできた。

そこは京の敏感すぎて弱いところのひとつなのだ。なおもしつこく揉み続けると、

「も―ヤメロっつ―の。オレは起きんの!」

涙目になった京が顔を横向けて庵を軽く睨む。

「やけに張り切ってるじゃないか」

「ん―。緋々稀より早起きして朝メシと弁当作ってやろうと思ってさ。やっぱり夜は

午前零時前就寝だな、庵。翌朝の寝覚めがいいや」

「………」

「あ、なんだよそのジト目は? 言いたいコトがあるなら口で言えよ?」

「…別に」

そう言ってはいるが昨日今日のつきあいではない京から見て、あるのは明白である。

「………」

京は身を起こし、庵の腹にドスンと跨るとその胸に両腕をついてブ然とした

その庵の顔を覗き込んだ。

「なにスネてんの?」

「スネてるだと?…オレを誰だと思ってる」

「八神庵だろ。で、もう一度聞くけどなにスネてんの?ヤセ我慢してるとまた

誰かさんに暴走させられっぞ?」

「…………」

シシシッと邪気のない笑顔で見下ろしてくる京を凝視していた庵だが、ふと

また新たな悪戯を思い付いたらしい。

ニヤリと笑うと、自分を跨いでいる太腿を撫で上げてそのまま京の短パンの

隙間から指を差し入れた。

「あッ、こら?!ちょっと…ナニすんだ!!」

京は慌てて庵の上から退こうとしたが、短パンの中の手に加え、空いている

もう一方の手に片腕を掴まれて元の位置に引き戻されてしまった。

「夜がダメなら今楽しませてくれてもいいんじゃないか?」

「!!」

庵の不満がそこにあるというコトに気づかされて京は思わず赤面した。

(そういえばここ最近いっぱいさせてないよな……)

だからといって今聞き入れてしまっては早寝した意味がない。

「やっぱ今はダメ!なんで早く寝るか言っただろ。緋々稀が起きてくる前にキッチンに行かねぇと…」

「聞こえんな」

「いおり〜〜〜っ!」

ヒップラインを撫で回していた手を中で反転させ、内側から短パンを引き摺り

おろそうとする庵と そうはさせまいとする京との攻防戦が展開する。

しかし結局折れたのは京のほうだった。

庵は強引に自分の上に引き倒した京から唯一の着衣を剥ぐと耳元に息を吹きかけるように囁いた。

「おとなしくしていろ。協力次第ではすぐ終わる」

「こ、こ、このエロヘビめ!」

「ムスコ思いなのは感心だが、あまりオレをほったらかすとそれこそ暴走して

ところかまわず押し倒すかもしれんぞ?」

「げっ!」

テレ隠しなのだろうがなおも悪態をつこうとする京を黙らせるために庵はその唇を塞ぎ、

文句のわりには素直に舌を受け入れる口腔を十分に味わった後、

ふたたび下腹に手を差し入れた。

「………ぁッ」

『しれんぞ?』じゃなくてヤるつもりだったな、テメー…と心の内でツッコミを

入れつつも、京は今度こそ諦らめたように体の力を抜く。

「……わかった。でもちょっとだけだぞ?」

「ああ」

そうは答えたものの、無論ちょっとだけですます気などさらさらない男・八神庵だった。



+++++ 2.ひとつ屋根の下 +++++



さて。2人がイチャつきだしてから1時間あまり後。

キッチンでは孝行息子の緋々稀が手慣れた様子で食事の準備に取り掛っていた。

いい具合に焼けたシャケを皿に移してテーブルに置き、弱火にかけた鍋に仕上げの味噌を入れる。

そんな朝食の準備がおおかたすむと緋々稀はチラリとキッチンの入り口に目をやった。

いつもなら朝食の匂いに反応して起き出してくる京が今朝はいっこうにでてこない。

そういう時はまず庵に邪魔されていること間違いなしなのだ。

「…ふぅ」

ほっとくのもなんなので、緋々稀はしょうがなく2人のいる2階奥の寝室へと向かう。

2人の仲がイイのは非常によろしいコトだと思う反面、朝から刺激的な現場を目撃するのは

いささかフクザツな気分である。

モラル云々の話ではなく、なにせ緋々稀は物心つく頃から京に恋慕の気持ちを秘めているからだ。

そして浮かぬ顔で寝室のドアの前までくると案の定―…。

「んん…ッ…。もう気ィすんだろ。そろそろ起きてかないと緋々稀が来ちまうっ …

て…ッ、言ってるそばから入れんな! スケベ!!」

「クックック。おまえが離さんのだぞ?」

「バカ…あぁっもうッ」

思った通り、庵がどうにも離してくれないらしい。

「………」

緋々稀はワザとらしく咳払いをするとドアを控えめにノックした。

中の気配がピタリと止まる。

「イオリ、キョウ、おはよう。朝食の用意ができてるんだけど」

そのまま数十秒の沈黙。のち、

「あ、ああ! すぐ行くよ! ほらッ庵ももう起きろ!!」

にわかに中がバタバタしだしたかと思うと庵のバスローブを羽織った京が飛び出してきた。

「ごめんな、緋々稀。今日こそはオレが作ってやろうと思ってたんだけどさ!」

艶気を漂わせる京の姿に一瞬見惚れてしまっていた緋々稀だが、すぐに気を 取り直してフッと笑う。

「いいんだキョウ。冷めないうちに早く来てくれよ」

「はいはい。その前にサッとシャワー浴びてくるから」

平静を取り繕いながら京がバスルームに駆け込んでいくのを見やった後、

「イオリもね」

緋々稀が寝室を覗いて声をかけると、庵はベッドから下りて煙草に火を点けたところで。

「ああ」 と、落ち着き払った態度で短く応えた。



+++++ 3.恋する遺伝子 +++++



ホコホコと湯気をたてるご飯を茶碗によそっていると、白のコットンシャツと

ブルージーンズを身につけた京が顔をだし、食卓のメニューを見て破顔した。

「お―っ。毎度思うけどうまそう〜♪」

「イオリはまだかな?」

「俺と入れ違いにシャワー浴びに入ってたからもう来るって。…にしても、

いつも朝メシまかせちゃって悪いなぁ」  

「おれ、キョウが喜ぶ顔見るの楽しみだし、作るの嫌いじゃないからかまわないよ」

朝日が射し込む中。

柔らかく笑む緋々稀に

「緋々稀、おまえって……」

京は手にしかけた箸を置くと、身を乗り出して反対側に座る緋々稀に向かって

両腕を伸ばし、食卓越しにぎゅっと抱き締めた。

「おまえってばなんていい息子なんだ!庵とそっくしな姿カタチに一時はどうなることかと思ったけど」

―そう。

いくら血筋とはいえ、緋々稀の容貌は庵そのものなのだ。

体つきや雰囲気はまだ17歳相当なものだったが、髪や目の色・指先に至っては同じ。

今でこそ惜しみなく愛情を注いでいる京だが、出産後なにも不安を抱かなかったと言えば嘘になる。

なんてったってあの八神庵の血をここまで色濃く継いでしまった子供だ。

そのうち言葉を覚えての第一声が

『草薙京、キサマを殺す!キサマが憎い!』

とか言い出したらどうしよう〜?早くも育児ノイローゼか、俺? などと思ったりした京だった。

しかし真綿にくるまれてスヤスヤ眠る我が子の寝顔を2人で覗き込んでいる時、

京のそんな心中を察したのか庵は臆面なくキッパリと言い切った。

『八神の…、強いては俺の遺伝子はおまえを愛するようにできている』と。

この男が言うと妙に説得力のあるこの言葉に京は安堵したのであった。

そうして。

3人暮らしの日々がいざはじまってみるとホントにそれは要らぬ心配だったようで。

「緋々稀」と命名された愛児は姿形こそ庵だったが"唯我独尊"な精神までは

受け継がれずに、温厚そのもので学業・スポーツに秀で、庵はもちろん特に京に

懐く最高の息子に成長していった。


―以上京の回想終わり。

「おまえが庵2号にならなくてよかった」

「なにそれ?」

「悪かったな」

「………!」

「………!」

京と緋々稀は同時に声の主を見た。


いつのまに来ていたのか、黒シャツの胸元をはだけさせた姿の庵がキッチンの

入り口に肩肘をついて、無感動に京と緋々稀のスキンシップを眺めていた。

「ふ〜んだ☆」

京は明け方庵のいいようにされた腹いせもあってか、庵に向かってアッカンべーと

舌をだすと席に着き、緋々稀も首に回されていた京の腕が解かれてしまったのを

内心残念に思いながら座り直す。

最後に庵が席について「肉がない」という呟きを洩らしたがそれは無視され、

京のひと声で一日が始まった。

「んじゃ、3人揃ったところで。いっただきます!」



+++++ 4.君は僕の太陽だ +++++



「いってきます」

「いってこい」

「おう。気をつけてな」

学校まで片道15分程の道のり。

緋々稀はスポーツタイプの自転車に乗っての通学である。

シルバーメタリックカラーのそれは高校入学祝いとして庵と京からプレゼント

されたもので緋々稀のお気に入りだ。

(………)

ふと京を想う。

いつもとかわらぬ素振りで京達に接し家を出た緋々稀だが、

本当は時間がたつごとに 胸が高鳴ってきていた。

きっと今朝がた、身の内から輝かんばかりの美しさを滲ませた京(…)を目の当たりにしたせいだ。

しかも食卓では京と向かい合っているため、京が身じろぐたびコットンシャツの襟元からのぞく

素肌につけられた真新しいキスマークが見え隠れして、秘 めていた劣情が昂ぶってしまっていた。

(おれはキョウに恋している…)

心が無防備な時を突いて湧き起こるその感情は、嵐のような激しさにも似て時折自分を苦しめる。

そんな時はたとえ相手が敬愛する庵であろうと、京にキスしたり抱き寄せたりしようものならば

羨望と嫉妬が入り交じった気持ちを抱くコトだってあるのだ。

――京をこんなふうに意識しだしたのはいつだったろうか?

それはたぶん――。


まだ幼少の頃。

緋々稀は庵の実家に半ば強引に引き取られていた時期があった。

長年に渡り根深い確執をもつ八神家と草薙家当主の間に生まれた緋々稀は関係者にとって

脅威と同時に待望の存在だったらしく、八神側は京が出産後、産後の肥立ち(←ギャッ。)が

悪く伏せったことをいいことにW健康状態並びに成長過程を詳しく見守るWという名目で強行に

養育を申し出た上で、まだ小さくてな にもわからない緋々稀を連れ出してしまったのだ。

広大な敷地の中でのなにひとつ不自由ない暮らし。

けれど家人は皆よそよそしくて、八神家の専属薬師・八雲という男以外とは

会話らしい会話ひとつない退屈で寂しい日々。

そんな毎日に耐えられなくなったある日、八雲の前で「キョウ達に会いたい」

と涙を零すと、八雲は「その顔で涙を見れるとは夢にも思わなかった。貴重な

瞬間を見せてもらった礼に」とかなんとかワケの分からないコトを呟いたかと

思うと、草薙本家に電話をしてくれたのだった。

手渡された受話器に耳をつけると、聞こえてきたのは京の声。

緋々稀は一生懸命伝えた。

『イオリやキョウのそばがいい。帰りたいよ。寂しいよ』


その日の昼下がりのこと。

母屋のほうがなんだか騒がしくて、それが止むと離れの庭にいた自分の前に

八雲に案内されてきた庵と京が現れた。

「迎えに来たぜ、緋々稀。遅くなってごめんな。でも今日からはオレ達の元で

暮らせるんだ」


「ものわかりの悪いアホウ共はオレが仕置きしといてやったから心配はいらん。

緋々稀、おまえの好きにしていい」

「…だってサ。さぁ、行こっか?」

「!!」

あの時緋々稀は、力強い笑みを浮かべて差し伸べてくる京の手を無我夢中で掴んだ。

帰り道。

右手は京、左手は庵の手と繋いで歩いている時、緋々稀はまだ万全な体調じゃ

なかったのか、時折少し辛そうに顔を歪めて歩く京に思い切って聞いてみた。

「ボクは生まれてきてよかったのかな?」

そんな問いに2人は立ち止まると、庵が黙って緋々稀を抱き上げ、目の前に立った

京が緋々稀にちゃんと伝わるように目を合わせて諭した。

「いいか、緋々稀。生まれちゃいけない命なんてないんだぞ。俺達なんかおまえが

生まれてくんの待ってたんだぜ? すんごく嬉しいの。愛してるよ、ムスコ」

「キョウ」

茜色に染まる空の下で満面の笑みを湛える京が眩しく感じられて。

後ろからこめかみにキスしてくれた庵のことも覚えている。

庵と京に包まれるように抱き締められたあの瞬間、緋々稀は目の前の京に恋心を抱いたのだった。

パパパーッ!

自分の背後から来たトラックがけたたましいクラクションを鳴らしながら追い抜いていく。

「………!!」

緋々稀はその音に我に返った。

先のほうで予鈴のチャイムがきこえてくるのを聞いて少し慌てた。どうやら

もの思いに耽っていてペースダウンしていたらしい。

この分だと京の朝の姿がチラついて本日の授業は身に入らないだろうな、と

溜め息を吐くと、緋々稀は加速をつけて一路校門に向かった。



+++++ 5.君は僕の太陽だ +++++



午後4時を回った頃。

オフで5日間ヒマになった庵はリビングのソファーで寝そべっていた。

音楽雑誌にもテレビにも飽きたのか、珍しくまめに部屋の掃除に勤しんで動き回る京を目で追っている。

と、背後で壁に埋め込み式の電話が鳴ってパタパタと小走りで来た京がでた。

「はい、八神です(←!)。ああ、緋々稀の……お世話になって……えっ?!?!」

ウトウトと目を閉じかけた庵だが、京のその声にパチッと目を開けた。

「すぐ行きますから」

受話器を置いた京はくるりと振り返ると庵の肩を揺すった。

「庵、車だしてくれよ」

「どうした?」

「今の、緋々稀の学校の担任からなんだ。緋々稀が上級生にケガさせたって…」

「………」

それから5分後。

2人は学校に赴いた。

緋々稀が殴った上級生たちのケガはごく軽いものだったのだが、当人たちが過剰に

痛がったせいで騒ぎが大きくなっただけだと聞かされてひと安心した京だった。

ただ、殴った理由がいまひとつわからない。

悪口が発端…という話だったのでいったい何を言ったのか?と、いちばん片頬を

腫らしている上級生に向かって(←というコトはそいつが言いだしっぺと見たのだ)

京が問いただしてみた。

がしかし、「八神くんのお、…」と言いかけたところで、緋々稀がまたガタンと威嚇するような

音をたてて立ち上がったのでその上級生は完全に竦み上がってしまい、今日は

ひとまず落ち着かせるためにも全員帰らせようということになり…。

帰宅すると緋々稀はすぐに自室に篭ってしまったので話し合うこともできず、仕方なく

京はリビングに行くと庵に事情を話した。会議室での緋々稀達の様子も付け加えて。

「緋々稀が誰かを殴るなんてはじめてだよな。アイツらよっぽどのコト言ったんだろうぜ。

なぁ…なに言われたか気になるよな、庵」

窓辺でくゆらせた煙草の煙をぼんやりと眺めながら聞いていた庵がクッと唇の片端を吊り上げた。

「察しはつくがな」

「…へぇ。おしえろよ?」

「………」

「おい?」

「聞かんほうが身のためだと思うぞ。緋々稀もおまえに聞かせたくないようだしな」

「なんだよそれ……って俺が原因?」

「……さぁ。あくまでオレの想像だが、緋々稀にとっておまえは無二の存在だ。

それをひどく貶めるような言われ方をすればいかな自制心の強いアイツでも…

と思っただけだ…―なんだ?」

すぐ側に来た京が、じっ、と自分の横顔を見つめているのに気づいて庵が顔を向けた。

「おまえもそうするんだ?」

「―…オレの場合は半殺しだがな。クックック」

「どうしよ―。ほんとにそうなら俺、緋々稀のこと叱れね―。嬉しくてニヤけちまうもん」

京はホッとしたような笑顔を浮かべると庵の肩口にコツンと額を当てて凭れ掛かった。

「叱るまでもないだろうが、声はかけてやれ。オレが行くよりおまえが行くほうがアイツも喜ぶ」

「ああ、そうする。…でもおまえと緋々稀の関係ってのもなんかいいよなぁ。言葉を

そう交わさないでいてもなんっつーかな、こう通じ合ってるってカンジするよな」

「いいコトばかりじゃないが…」

フ―ッと息をつき、煙草を灰皿に押し当てながら呟いたそれは、京の耳まで届かなかったようだった。



コンコン。

「緋々稀、入るぜ」

子供部屋にカギを取り付けていないので、厳重にバリケードを張られない限り、中に入れないことはない。

だが京は、ちゃんとノックして断りを入れ、一呼吸置いてからドアを開けた。

入ってすぐ、京はカーペットの床に正座して神妙な面持ちで自分を見上げて

いる緋々稀の視線と合い、思わずつられるように向かい合って正座した。

まるでお見合いである。

「緋々稀、あのさ…」

「今日のことは迷惑かけて悪いと思ってる。ごめん。理由はどうであれケガさせたの

はおれだから、そのことについてはちゃんと謝ってくる。心配いらないよ」

「…あ、ああ。以後気をつけるように」

あまりに素直で迅速な立ち直りに京は早くも会話を締めくくってしまった…。

どうもこの容貌から謝罪の言葉を聞かされると調子が狂う。

上級生がどんな暴言を吐いたのか聞いてみようかどうか迷っていると、真剣な

顔をした緋々稀がズズズイッと身を寄せてきた。

「キョウ、ずっと前から聞いてみたかったことがあるんだけど…」

「ん?なんだ?」

「キョウはイオリのどんなとこを愛して一緒になったの?」

「――はっ?」

「もう自分の気持ちを素直にだそうと思う。今日のコトで実感したんだ。本心

を抑えてると思わぬところで気が荒れるのを止められなくなるって」

「もしもし………緋々稀くん?」

部屋にアヤしげな雲が立ち込めてきたような気がする中、緋々稀は瞳を輝かせて宣言した。

「おれ、キョウが好きだ。だから自分を磨いてイオリ以上にキョウにふさわしい男になる!」

「あ、あのな…。俺達生物の理念打ち破っちゃってるけど一応親子関係…」

無駄とは感じつつも諭してみようと試みる。

だがなにかをふっきったような晴々とした緋々稀の顔に、今はなにを言っても

ダメな気がしてそれ以上の言うべき言葉を失った京だった。

(これも八神の血のせい…?)

ボー然とするしかなく。すると、

「展開、急を告げる、か…。どうする、京?」

緋々稀のモンダイは京に任せてさっさとシャワーを浴びに行っていた庵がようやく顔をだした。

京はすがる思いで庵をかえり見る。

「いいとこに来たな。庵! ここは父オヤとしてビシッとなんとか言ってやれ!」

「………」
 
一瞬、京は自分を挟んで互いを見合う庵と緋々稀が、蒼い火花を散らしたような気がした。

「オレを越える、か? ……クッ。楽しみだ。せいぜいやってみるがいい」

「こら――ッ(怒)!! 焚きつけてどうすんだ!!」

  助っ人と思ったのに全然なっていない。

「バトンタッチだ、庵。いいか? 分かり合ってる父と子同士で、緋々稀だけには道を

踏み外さないようによ―っく言って聞かせるんだぞ!! オレは風呂入ってくる!!」

逃げるように京は部屋を出た。

バタンと締め切られてしまった部屋に残された2人は顔を見合わせるとどち らからともなく苦笑した。

「本気だよ、おれ」

口元は笑っているが、目がそれを物語っている。

「好きにしろ」


「うん、好きにする。昼間の一件は自分で片づけるからキョウにも言っといてよ」

「わかった。で、そのバカ者共はなんと言ったんだ?」

「イオリなら察してくれてると思うけど?」

「…フン。まぁいい―…だが罰は必要だな」

庵が話は終わったとばかりに背を向けながら、ここぞとばかりに緋々稀に言い付けた。

「騒ぎを起こした罰として1週間、朝のキッチン担当はおまえだ」

「………」

庵のもくろみを察せれないほどニブくはない緋々稀はすこし睨むように庵を見上げる。

「不服か?」

「京を独占する気だな?」
「もちろんだ。近頃のアイツはおまえ優先で動いていたからな。そろそろこのあたりで返してもらおう」

「…しょうがないや。ひとまず明日から1週間は、ね」

緋々稀は肩を竦めて苦笑した。



+++++ 6.蜜月バトル +++++



時計は明日を指そうとしている。

風呂から上がった京はバスローブを纏って寝室に入った。

部屋の照明は室内の一角に置かれた間接照明だけがぼんやりと点っているだけだった

が、月明かりもあって視界は利いた。

ベッドの上では庵がすでに眠っていて…と思いきや、京が戻ってくるのを待っていたように起き上がってきた。

「すいぶんと長風呂だったな」

「ああ。それより緋々稀とちゃんと話したかよ?」

「した」

「ふ〜ん。どうだった?」

「それは父と子のナイショ話だから言えんな」

「なんだそりゃ? そんなコト言わずにおしえろよ〜」

ベッドの端に腰掛けた庵の前に京が佇んでせがむが、

「もう済んだ話だ。それより今からは俺とおまえの時間だぞ」

そう言って庵は京の手を掴むと自分の足の間に引き入れて顔を覗き込んだ。

バスローブの腰紐を解き、合わせ目からスルリと手を滑り込ませそのまま ストンと足元に落とす。

上気した肌に啄ばむようなキスを降らせながら程よく引き締まった腰や腹を撫でると

京はくすぐったそうに身を捩じらせながらその場に膝をついた。

「あのさ―…庵、今夜もちょっと、サ」

「いい匂いだ」

京の洗い立ての髪に顔を埋めた庵がクンとちいさく鼻を鳴らす。

「聞けよ、コラ」

「朝も言ったが聞く耳もたん。来い」

「やだ」と言う間も与えず庵は京の脇の下に両腕を差し入れ抱き寄せるとその体を

抱えたままベッドに倒れ込んだ。

勢いあまって庵の胸に突っ伏した京が、恨めし気な声をだして顔を上げる。

「い〜お〜りぃ〜〜〜〜」

「緋々稀の相手もいいが、オレがいることも忘れるなよ」

「……わかってるよ。でもな…」

「緋々稀には罰として明日から"朝のキッチン当番"を言いつけておいた」

「……ん?」

「今夜から夜更かしし放題だな、京」

「ちょっ、ちょっと待った!」

「待ったナシだ。いさぎよく抱かれろ」

 ワザと煽るような口調と表情で京を誘う。

「…どうしてもヤルのか?」

「今さら命ごいか?」(…爆)

「……………」

売られたなんとか…ではないがファイターとしてはこうも挑発されたらやはり…

受けてたつべきだろう。相手は八神庵だ。興奮しないはずがない。

「………手回しよすぎるぜ、庵」

ボソッと洩らすと庵が喉の奥で楽しげに笑う。

京は体を起こして庵のシャツのボタンに手をかけて外していくと、晒した胸の 中心に唇をつけて強く吸い上げた。

そこからゆっくりと体と一緒に唇もズラして鳩尾にまたひとつ、腹にまたひとつと赤い刻印をつけていく。

あとは―…。

「………」

ボタンを外しジッパーに手をかけたところでチラリと庵の表情を上目づかいに窺う。と、

「どうした? 恐いのか?」

庵の指先が京の髪に触れてきた。

「恐いワケあるかって―の!」

「では続けてもらおうか、京」

官能的な声音でまたもや挑発されてしまった。体の底からゾクゾクとくる。

もう止まらない、と京は本能が求めるままにまかせた。

我慢してたのは自分 も一緒なのだ。

「…よ―し。こうなったら今夜は俺が先制してやるぜ」

「ほう。大きくでたな。その眼、久々に血が騒ぐ」

「俺もさ」



ひとときの蜜月ははじまったばかり。

その夜どちらが先制したのかはひ・み・つ☆







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 息子がイッキに17歳!
 そこは京を想う分だけ普通の子供よりちょっと成長が早まった…ってコトで☆  
                                              (2000.7.9UP)