「In the world only for 2」




「八神。暑いからって、ずっと冷房の効いた部屋に篭ってるのは不健康だぞ。つきあえよ。

海見に行こうぜ」

暇を持て余した京は、寒いぐらいに冷房を効かせている寝室からいっこうに出てこようと

しない八神の頭をつついた。

「とにかくこの部屋は冷房効かせすぎ! おまえの属性、ヘビなんだから、こんなところ

にずっといたら、冬眠しちまうって」

京の突っつき攻撃に負けて、モソッとタオルケットから、八神がムスッと顔をだして唸る。

「この炎天下の中をか? 断る。オレは寝る」

低くうめくように答えると、八神はまた目を閉じて横になろうとする。しかし、京だって

諦めない。

「おまえも格闘家のはしくれなら、もっと積極的に鍛えろよ。砂浜は筋トレにもいいぞ?」

その言葉にパチリと八神が目をあけて、じろりと京を見上げた。

「筋トレ? そんなのがまだ必要か? オレの筋力は身をもって知っているだろうに。何

なら今からでももう一度、証明してみせてやろうか」

肩肘をたてて頭をもたげた八神が目を細め、口元に笑みを滲ませたのを見た途端、京がビ

クリと腰を揺らして、慌ててベッドから降りる。

「うぉいっ! 尻を揉むな…って、どうしてそっちに話がいくんだ。このエロヘビ! む。

まだヤリ足りないとか言うんじゃ…」

「あたりまえだ」

「即答すんな。…あれ以上してたら、それこそおまえの思うツボじゃねーか」

「ほぉ。意外と察しがいいな。今度こそ可愛げのあるねだり方を躾けてやろうと思ったのに」

「ハッハッー、だ! この草薙京様に可愛くねだってもらおうなんざ、百万年はえーっつーの!」

「そんな強がりを言ってて大丈夫か? あとで恥ずかしい思いをするのはそっちだぞ、京」

「…ぅ…まぁ、それについてはだな…後で考えてやるということで。だからな、その為に

も、昼間はせいぜい俺の機嫌をとっといたほうがいいと思うぜ?」

「………」

見合うこと数十秒。八神が寝乱れた前髪をかきあげながら、ようやく体を起こした。

「ま、それもそうだな。なら出かけるとするか」と。





そうして、夏空の下。京のバイクで二人は海へ。

着いて早速、機嫌の良い京は、容赦なく肌を焼く日差しをものともせず裸足になると、波打ち

際を大股で歩いて行く。

熱と潮の香りをはらんだ海風に吹かれながら、どこまで行こうというのか。

八神は無言のまま、その後ろをすこし離れてついて行きながら、ずっと京の背中を、時折見

える横顔を見つめていた。

タンデムしてきたバイクを停めて砂浜におりてから、ほとんど言葉を交わしていないのだが、

べつにどうでもよかった。

もっとも気温の高まる時間帯のせいか、あたりに人影は見あたらない。

と、急に京が立ち止まり、後方の八神に話し掛けてきた。

「誰もいない海ってのも気持ちいいな。なんか、おまえとアレな感じってのもヘンだけどよ」

「…? アレとはなんだ?」

追いつきかけた八神が聞き返すと、京はふっと柔らかに笑んで答えた。

「二人だけの世界ってやつ」

「………」

八神は無言のまま、京を凝視するばかりだ。

二人の耳元で、ただ風が鳴る。

「…………」

「…あ。あー、でも八神と二人ぼっちの世界ってのは、どうなのかなー」

八神のあまりのまっすぐな視線に照れたのか、京の視線が水平線へと反らされてしまった。

だから八神の腕が伸ばされたことに気づくのが遅れた。

「!」

「退屈はさせんと思うが?」

「ああ。たしかに。…ところでおい、八神。ここでそれは大胆だろ…」

「そうか? なにせ今ここは、二人だけの世界だろう?」

八神はそう言ってニヤリと笑んでみせると、ますます力を込めて、京の体を抱き寄せる。

「そう、だったな」と、体の力を抜いて八神の首に腕を回した京も、目を伏せて、八神を

抱き返した。



『テメーと二人だけの世界というのも悪くない』

『おまえと二人だけの世界というのも悪くない』

口にはしないけども、互いに胸の内で思うことは一緒だと、触れ合う肌を伝って感じあう。


このあと、二人がおなじ強さで求め合うものは、海風だけが知っている。




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