「星に願いを」 ![]() |
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| 七夕だというのに外はあいにくの梅雨空が続いていた。 それを見越してかどうかは知らないが、庵と京が立ち寄ったビル最上階の展望台では 七夕祭りが催されているという。 そのポスターを目にした京は、先を歩いている庵の袖を引いた。 「なぁ、庵。ちょっと見に行ってみようぜ?」 「?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 休日にしては空いている展望台直通の高速エレベーター。 耳が詰まるような感覚にお互いかすかに眉をひそませるが、それも一瞬のことで。 すみやかに到着したそれは静かに扉を開いた。 「おー。さすが最上階。見晴らしサイコー」 降り立った目の前に広がる街の景色と空をゆったり眺め歩きながら、京が明るく素直な 感想を洩らす。 「晴れてりゃもっと良かったけど」 よく磨かれた巨大なガラス窓に近づいて顔を寄せ、眼下に、そして彼方へと目を凝らせ ながら呟くと、そうだな、と、傍らに来た庵が相槌を打った。 そうして少しの間、京の視線を追っていた庵だが、京がひとまず景色を堪能した頃を見 計らって声を掛ける。 「―で?おまえが見たいという七夕祭りはどこだ?」 「おっと、そうだった!えーっと……あ、あっちみたいだ」 あたりを見回してすぐに壁に示された案内図を見つけ、京は庵を手招いた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 順路に従い、反対側のフロアに行ってみた2人が目にしたのは、フロア中央に立って いる3メートル前後の笹竹6本。 人はまばらだが、すでにどの笹にも色とりどりの短冊が結ばれていた。 余計な装飾や演出は一切なし。 願いごとを書いて枝に結ぶのは自由らしく、各笹竹のそばに置かれた机の上には、赤 や黄色の短冊と筆ペンが用意されている。 「あー……そうだよな。七夕さんて、こういうもんだったよな」 その箱から朱色の短冊を取りだして、京は苦笑を浮かべた。 それを見た庵がすかさずツッコむ。 「京…おおかた<祭り>の文字で、出店でも並んでるかと想像しただろう?」 「う…」 「したんだな」 図星を指されて思わず言葉を詰まらせた京を尻目に、庵は鼻先で笑って立ち並ぶ笹竹 に近寄った。 手近な短冊を手にとり、書かれている願い事を黙読する。 恋の成就や夢の達成祈願。その他諸々。 庵はふと、願い事の内容からその人間の今に思いを巡らせてみた。そうしていると、 「ほらよ、庵。せっかく来たんだ。おまえも人の見てばっかいないで、なんか願い事書けよ」 いきなり横から左手を掴み取られ、手のひらに金色の短冊と筆ペンを乗せられた。 庵はイヤそうな顔を京に向けて口を開きかけたが、どうやら拒否は許してもらえそうにない。 「……おまえも書くんだろうな? 京」 「おう。書くとも。いいか、庵。星に願う言葉は気取らず素直に、だぞ?」 「………」 しかし…。 と、京とは笹竹を3本隔てた机で、手渡された短冊を前に庵は考える。 なぜに自分の短冊がこのように主張強そうなピカピカの金色なのか(金色はこの1枚だけらしい)。 そして京の短冊はあたりさわりのない朱色なのか、だ。 ……………。 なにかひっかかった。だから聞いてみた。すると、 (いいから目立っとけ。天の誰かさんの目にすぐ留まって、その願いを叶えてくれるかもしんねーだろ) そう言って笑った京の顔を思い出して、庵はフッと口元を緩めた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「いおりー、いつまで短冊と睨めっこしてんだー?」 「急かすな。今書く」 「俺はもう書いたぜ。どこに結ぼっかなー?」 機嫌のいい声をだしながら京が椅子に登って、いちばん向こうの、一番高い位置に朱色の 短冊を括りつけている。 ついでに一緒の机で同じように願い事を書いていた子供達の分まで結んでやったりして 喜ばれていた。 「………!」 足元で口々に礼を言う子供達に笑顔で返すその横顔に、折りしも雲間がはれて展望台に 差し込んだつかの間の陽光が降り注ぐ。 純粋に綺麗な一瞬だと、庵は我知らず見惚れていた。 瞬きさえ忘れるほどに。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「いおりー、書いたかぁ?」 「ああ。書いたし、もう括った。おまえが子供達にジュースを奢られてる間にな」 「ははは…」 すっかり子供達に懐かれて、京は自販機の前に引っ張っていかれて「お礼だよ」のパック ジュースを頂いてきたところだった。 「なーんだ。で?八神くんは願い事、なんて書いたのかな?」 おどけた口調で、備え付けのソファーに腰を下ろしている庵の顔を覗き込む。 「さあな」 「まぁたまたトボけちゃって…って、おまえまさか打倒草薙!とか書いてねぇだろうな?」 「そんな色気のないこと、誰が書くか」 庵は腕を組んで憮然と京を見た。 「はあ?色気だぁ?だからなんて書いたんだ?見たい!見せやがれ。すごく気になるぜ」 京は庵が書いていた机脇の笹竹に目を走らせる。 その際に金ピカはどこだ?と口走るのを耳にして、庵はようやくピンときた。 「なるほど。金色の短冊をオレに渡したのはそういうことか」 「あ?」 京が庵をかえり見る。 「金色の短冊なら容易に見つけれると思ったんだろう?」 「…………あたり」 にっ、と笑ってあっさり認めると、京の視線はまた目の前の笹竹に戻る。 その背に、向かって庵はもうひとつ聞いてみた。 「では京、自分の願い事をオレに見せる気はあるのか?」 「ない」 即答。 「ほう? …そのくせオレのは見せろとは、あまりに勝手だとは思わんか?」 「そうかもな。でも八神庵の願い事、草薙家の京様としてはおおいに気になるしさぁ」 「そう言うならこの八神家の庵様としても、草薙京の願い事は気になるが?」 「京様の願い事を見るなんざ10年早ぇーの!」 「わかったわかった。好きにしろ」 大きな溜息をひとつ吐き、庵はとりあえず京の好きにさせた。 京はふたたび探しはじめ、背丈のある笹竹を上から下へ、下から上にとまんべなく目を走ら せる。が、なかなか見つけだせずに首をひねっていた。 「…っかしいなー。庵、ほんとに括りつけたんだろうな?」 「ああ」 京が疑いを抱きはじめた。 黙って見ていた庵はチラリと時計に目をやり、立ち上がった。 「タイムアップだ、京。いい加減に諦めろ。そこを探しても無駄だ」 「なんだよ、それ?…あ! この笹に括ったんじゃなかったのか? …って、おいっ、ちょっ… 庵、なにす…んっ…」 質問に取り合ってもらえず、突然抱き込まれた上に後ろ髪を掴まれ、仰向かされた。 あっ、と半開きになっていた唇が、庵の唇に塞がれる。 なにすんだ!と慌てる京の視界の端に、少し離れた場所で、十代と二十代とおぼしきカップルが 2、3組呆気にとられている姿が映った。 さすがにハズカシイ! (庵、もうやめ! 人が見てる! 人が見てるんだって!) くぐもった声つきで念を送ってみたが、伝わらないのか無視されているのか、自分をガッチリと 抱き込む腕の力は弱まらない。 しかたなく京はそのまま後ずさり、端のほうへ背がつくまで逃げてはみたものの、庵はますます キスを深めていくばかりだ。 降参です! とばかりに甘い息をひとつ洩らすと、ようやくその腕から解放された。 「こんなとこでっ…俺をメロらせてどうすんだ…ッ、つっーの」 「どうした? この程度で腰にキたのか?」 「ええ、ええ。うっかりキちまいましたよ、このテクニシャン! でも時と場所を考えろっちゅーの」 京は庵の襟を鷲づかんで引き寄せ、小さい声で恨みがましく抗議を申し入れた。 が、それを誉め言葉と受け取ったのか、庵は機嫌がよろしいようで。 「それはすまんな。だが好都合。もう一度とっておきのキスをしたらどうなるか…?」 耳元で囁かれるあやしい響き。 庵の魔の手がふたたび自分に伸ばされるのを見て、京は咄嗟に我が身をガードした。 「だからやや、やめろって。公衆の面前で! ギャラリーが増える」 「ならば早くここを出ることだ。願い事も笹に託したことだしな」 「……あっ! テメ、それだけの狙いでやったんかい!」 「とんでもない。愛しさあまってのことだ。オレの願いはおまえが叶えてくれるだろう。なぁ織姫?」 しれっと、そしてニヤリと笑う庵。 「………だったら、帰ったらぜってーおしえろ。おしえるまで寝かせねーからな、彦星!」 もう自分に勝ち目はない、と殊勝に認めて京は立ち上がり、高速エレベーター乗り場に足を向けた。 その背中に庵が言う。 「頑張ってみろ。もとより寝かすつもりはないがな」 去り際、庵は笹竹を振り仰いだ。 一番端の一番高い位置。、京が自分の短冊を結んだ笹竹を。 朱色の短冊に寄り添うように金色の短冊が結ばれている。 見る位置によっては朱色の短冊に重なって見えないかもしれない。現に京の思い込みもあって、 結局金色の短冊は見つからずにすんだ。 庵は、京が子供達に呼ばれて笹竹から離れているうちに手早く結んで、京が戻ってくる頃には何事 もなかったように元いた笹竹のところにいた。だから京はまさかわざわざ一番端っこの、ましてや 自分の短冊の横に庵が短冊を結んだなんてこと、思いもしなかったらしい。 そしてつい、こっそり見てしまった京の願い事。 自分の願いを見せるつもりはないのに庵のは見たいとのたまった京のことを勝手だと呆れて言って しまった手前、見てしまったことは永遠の秘密に。 けれど、明瞭な願いは庵の胸に暖かく満ちた。 庵もまた願う。 あの短冊にこめられた言葉を繰り返すように。 光の朝も、星の夜もずっと共にと――。 時期は逸しましたが七夕ネタを。なにやってんですかね、この人達…(^^;;;) ヘンテコな話になってんなーとは思ったんだけど、ここまで書いといて没にすんのも イヤだわーってことでUPなーのだー。(030714) 戻 る |