| 「桜ロマンセ」 風のない穏やかな夜だ。 にもかかわらず、私有地とされるこの山に咲く桜の木々たちは、まだ盛りを過ぎても いないというのに、はらりはらりと薄桃色の花弁を舞い散らしている。 そうすることで、その下に佇んでいる男の気を引こうとしているかのように。 けれど、たとえそうだとしても、そんな花の心は今のこの男に届くまい。 なぜなら男の視線は今、 ゆったりとした足取りで男の元へと近づいていく自分へと一筋に向けられているから。 たぶん、いやきっと心ごと……。 「こんなに綺麗に咲いてるっていうのになぁ。ごめんな、桜達。 今のあいつには、俺しか見えてねぇの。俺って罪な男だろ?………なぁんてな」 誰も聞いていないからいいようなものの、 我ながら寒い台詞だと、京は首を竦めてシシシと笑った。 「なにを笑っている?」 男が、庵が先に声をかけてきた。 手を伸ばせば互いの体に触れられるほどの距離にいる。 そして気づいた。 庵の髪に肩に纏わりつく、桜の花びらの多さに。 「………っ……」 いったんは引っ込めた笑みで、京は再び口元を緩めた。 こいつ、ほんとに俺しか―――。 「だから、なにが可笑しいというんだ、京?」 「ん?だってさぁ…。なぁ庵、おまえ、いつからここに立ってた?」 「…何を聞くかと思えば………。ついさっきだ」 「ついさっき? そりゃ嘘だね」 「嘘なものか」 「……ふぅん。ま、いいや」 絶対素直に白状しないのはわかっている。けれど、そのかわりに 「桜達がおしえてくれたもんね」 「?」 京はニッと笑うと、怪訝な顔をして自分を見る庵にさらに近づき、 かまわず、その首と背に腕を回して抱擁した。 一瞬驚いた庵が引き剥がそうとするのを拒むように腕に力を込めて。 それからその首筋に顔を埋めてしがみついてやる。 戦意満々でここに来ていたのであろう庵が一転、当惑している気配。 京は庵の首筋にそっと唇を押し当てて、口元の笑みをますます深くした。 「なぁ庵、こんなに桜の花びらいっぱいつけて。ほんとに、いつから待ってたんだよ?」 「………」 「そんなに俺に会いたかった?」 「………」 「くっつけてる桜の花びらの多さに、俺への愛を感じるぜ?」 「……世迷いごとはそのぐらいにして、辞世の句でも考えろ、ポエマー」 京に抱擁されたままつれない言葉を返す庵だが、桜を見上げるその表情は優しく、 長い指先は京のくせのない黒髪を、いつまでも撫で梳いていた。 桜の花びらは語る、素直になれない恋するキモチ。 戻 る |
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20030323UP 庵んの誕生日を京と共に祝うつもりでいたんだが、間に合わず。 でもなにも書かないのも心残りになりそうなので、「とにかく書け!」 と己を叱咤激励してみたら、こんなSSになっちゃいました。わは☆ 自分の誕生日。「勝負」にかこつけて、自分ちの家が所有する桜の 見頃なお山に京を呼び出した純情庵さんと、そのお誘いにやってきた 京のバカップル話でした(笑)、ということで。 一応、これでも「庵ん、お誕生日おめでとー!」って気持ち込めてます。 |