『MELTY KISS』



女の子達が盛り上がったバレンタイン・デーも過ぎて、世間もしばしの落ち着き(だって次にホワイトデー

が待ってるもんね!)を取り戻した頃を見計らって、京は久し振りに庵の部屋を訪れていた。                  

柔らかい日差しが差し込むリビングのガラスのテーブルを挟んで、2人は思いおもいのことをしている。
                               
京は一人掛け用のソファーにくてーっと体をもたれさせてバイク雑誌を眺め、庵は次のライブで使う曲の

フレーズチェックに余念がない。時折、ページをめくる音や衣擦れの音がする以外はまこと静かな空間

ではあるが、重苦しい雰囲気はなくむしろ穏やかだ。

「・・・・・・・」

庵がふと譜面から顔を上げた。

空気の流れで京の動きに気づいていたが、鼻腔をくすぐる甘い匂いにつられて京を見る。

「お・・・・・!」

京も庵の視線に気づいた。

「・・・・・・」

「・・・いや、だって、おまえ甘いモノ苦手なクチだろ・・・」

自分だけ食べようとしたコトを非難されていると勘違いした京は、愛想笑いを浮かべつつ、

胸ポケットの小箱を指差す。

「食べる?」

「女からの貰いモノか?」

「うん? まぁ〜、そりゃぁ〜、京サマはなんてったってモテるからなー。いおりんにも愛をおすそわけッ♪」

庵の抑揚のない問いに、京は一瞬上目を向いてポリポリとこめかみを指先で掻いたものの、すぐに屈託

のない笑みを向けたが、

「いらん」

庵はつまらなさそうに譜面に視線を戻してしまった。

「あーっそ。いいもんね。俺みーんな食べよーっと」

再び沈黙。

ポケットから取り出した小箱をテーブルに置いて中のトリュフチョコを食べつつも、さっきとはうってかわって

気まずい雰囲気になった気がして、不安になった京は身を乗り出して庵をうかがった。

「・・・なぁ〜、なんかおまえ、静かに怒ってる?」

「べつに」

「でもなんかヘンだぞ」

「気のせいだろう」

「だったら俺の目を見て言えよ。久し振りに会ったのにこんな気持ちのまま帰るのはイヤだからな」

その言葉にやっと庵が視線を上げた。心細そうに瞳を揺らす京に、庵は譜面とペンをテーブルに置くと

京の左頬に手をかけ軽く引き寄せると、問い掛けたその唇に軽くキスし、耳元で囁いた。

「帰すつもりなどないが?」

「・・・え?」

頬にかけた手はそのまま、唐突なキスに照れている京を正面から見つめた。そしてチラリと小箱の中に

トリュフが残っているのを見ると、取りだして京の口元へ持っていく。

「口をあけろ、京。最後の一個だ」

「・・・・・・」

庵の言葉に従い、その指からトリュフを受け取り、口に含んだ瞬間。

頬に当てられたままだった庵の手が首の後ろに回ったかと思うと髪を掴まれ顎を持ち上げられた。

「・・・・んッ・・・・・・ンン?!」

噛み付くようなキスに京はなすすべもない。求められるまま、庵の舌を受け入れた。

「・・・・ンンッ?! いお・・・ッ」

息を継ごうとして唇を離そうと身じろぐことさえ許さないといったふうに庵は京を抱きすくめた。

少し前の穏やかな動きからは察することは出来なかった庵の中の嵐を今、身をもって知った京だった。

(あれ・・・・) 

ようやく腕を解かれて自由になった京は、口に含んだはずのトリュフがなくなっていることに気づいた。

(もしかして・・・)

庵を見る。

「甘いな」

キスの余韻に少しトロンとしている京に庵がニヤリと口の端を吊り上げた。

「・・・・・・・・・・」

京の口の中にあったトリュフはさっきの口づけのさなかに庵に奪われていたようで。 

見慣れたハズの唯我独尊オトコのクールな微笑に目が眩む。

「なぁ、これをするために・・・食べさせた?」

「あんまり可愛く俺にすがってくるから、ちょっとした思いつきでな」

「す・・・すがってなんかないーッ!!」

「それに誰かさんは<愛の告白>をチョコに託してはくれんようだしな。これで受け取ったということにしておこう」

京の第六感にピンとくる。

「なんかさ・・・・もしかして・・・俺が女の子からもらったチョコ食べてんの、すごくヤキモチ妬いてたりした?」

「なんのことだ」

声はいつもの声だけど、目が明後日のほうに行っている。

(ビンゴじゃん!)

「なにが可笑しいんだ、京」

いつのまにやら口元が緩んでいたらしい。庵が睨んでくる。

「いや、ハハ・・・なんかおまえって、カワイイ男だなって・・・プッ」

庵の片眉がピクッと上がる。プライドが無限に高いこの男には言っちゃならないこの言葉。

分っちゃいるけど言わずにはいられなかった京だった。

「14日にあげれなくって悪かったよ。だってあの日じゃいかにも、ってカンジで・・・・。オレ男だし、庵も

そういうの苦手かなって思ってさ。ホントはそのチョコはオレが庵に買ったの。結局1コだけになっちゃった

けど、それで我慢してくれよ」

「これだけでは我慢できんな」

庵が京の腰に両腕を回して再び抱き寄せる。

「今日は帰さんといったろう?」

「・・・・・・・うん。なぁ、庵」

「なんだ?」

「もっとキスしてくれよ」

「ああ。蕩けるようなキスをいくらでも、な」

深みのある低音がで耳元に落ちてきて、京もまた庵の背中に両腕を回しギュッと抱き締め返して返事をした。 

 

いつのまにか街には夜の帳が落ちようとしていた。

 





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