| ‖ LIBIDO ‖ 「ゴホッ…! 痛ってぇ…」 意識を取り戻し、大きく息を吸い込もうとすると激しく胸が痛んだ。 痛みをやりすごそうとして、呼吸を浅くして目を閉じると、思い出したくない光景が 浮かび上がってくる。 数時間前、夕食をおごることを条件に陽が完全に落ちるまで京に日頃の特訓の 成果を見てもらっていた真吾だか゛、その後教室にカバンを取りにその場を離れた 間に、京が八神庵と対峙していた。 京の一番弟子などと豪語して二人の間に割り込み、京の制止も聞かず、身の程 知らずにも八神に立ち向かった真吾は案の定ハデに吹っ飛ばされ、意識朦朧と した頭で二人の闘いぶりを眺めていた。 京の緋炎と八神の蒼炎が互いの体を舐めるように走る。壮絶でどこか幻想的でも ある光景だと感じながら、真吾は、自分やクラスメイト達の前ではめったに見られない 京の真摯な表情を食い入るように見つめた。その間にも幾度かのぶつかり合いが、 だが狂気ともいえる圧倒的な力でもって相手をねじ伏せたのは八神庵だった。 「どうした? この間やりあった時のキズがまだ痛むか」 「うるせ−んだよっ。まだやれるぜ!」 悪態をつく京を楽しげに見下ろしている八神は少し目をすがめ、京がもとより痛めていた 右足首に事も無げに痛烈な一打を与えた。 「ウッ…グッ」 痛みにのたうつ京の体を地面に縫いとめるように押さえ込み、悦に入っている八神 ににそれ以上の闘いを止めさせようと動こうとした真吾は、次の瞬間凍りついた。 なぜなら八神が顔を背けようとしている京の顎を捕らえ、上を向かせると噛みつくように 荒々しく口づけたからだ。八神は抗うように身じろぐ京の上にのしかかり、体重をかけて 動きを封じ、酸素を求めて口づけから逃れようとする京を許さない。 駄々っ子のように自分を欲しがる八神に根負けしたかのように、京が目を閉じた。 (草薙さん?!) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ちぇっ…。嫌なこと思い出しちゃったよな…イテテ…」 八神に叩きのめされて軋む体を起こす痛みに我に返る。 あの時の京の様子に、真吾は察してしまった。以前、憔悴しきった状態で帰ってきた あの日、二人の間にあったコトを…。時折見せるようになった艶を含んだ 憂い顔のワケを。 (草薙さんが変わっていく…変えられてしまう…) 「いやだな…草薙さんを変えるのがあの八神庵だなんてさ…俺だって」 その後の言葉を呑み込んで、ただ空を見上げた。 雲ひとつない天空に静謐な光を湛える満月が浮かぶ。 2人の姿はすでになく、どこへ行ったのか真吾には知る由もなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 開け放たれた窓から、潮の香りとともに波音が聞こえてくる。 京は窓際に置かれたダブルベッドの上に仰向けに寝転び、ぼんやりと風に小さく 波打つカーテンを、見るとはなしに眺めていた。 「京」 名を呼ばれて、体はそのまま、視線だけを部屋の入り口に移す。人目をひく長めに 伸びた赤銅色の髪と、人外の血脈を受け継いでいることを思い起こさずにはいられない 琥珀色 の鋭い双眼をした庵が薬箱片手に立っていた。 庵はフイと自分から視線をそらせた京に歩み寄ると、その右足首を指先でなぞる。 「いっ・・・触るなよっ!」 途端に京が悲痛な声をあげた。 「触らなければ手当てできないだろうが。少しぐらい我慢しろ」 「手当てだぁ? 俺の足をこんなにしやがったのは、八神・・・てめぇだろうが!」 京の目に剣呑な光が宿る。 そうなのだ。さかのぼること数時間前、真吾の修行の成果を見てやって、さぁ これから奴のおごりで何を食うかと考えていた時、いきなり現れたかと思いきや 「俺と来い」ときたのだが、京にしても「うん、いいよ」なんて言い合う仲でもない ので、鼻先であしらったらバトルに突入したワケだ。 その折りに言うことを聞かない京に業を煮やした庵は、京の手負いの足に容赦ない 一撃をくれたのだ。その激痛のショックと、奪い取るような口づけで失神した京を、 何を考えているのか庵は自分の手元に置いて今に至っている。 今にも牙が生えんばかりの形相にもおかまいなく、庵は赤紫に腫れ上がった京の 足首に冷却スプレーを吹きかけた。 「うーっ・・・・!」 思わずシーツを握り締めて痛みに耐える京の表情をチラリと見て庵は薄く笑った。 「そそる顔だな」 「・・・・っ。ぬかせっ。俺をどうするつもりなんだよ?」 痛みと興奮のあまり目を潤ませつつも、体を起こした京の顔が間近にきた瞬間を 逃さず、その唇に庵はすかさず口づけた。 「〜〜〜〜〜〜〜っ!」 驚きと怒りに声にならない京に、庵は意地の悪い笑みを向ける。 「あいかわらずな奴」 「そうやって俺をからかうのもいい加減やめろよ。俺、帰るぜ」 唇を袖口でゴシゴシ拭い、上目づかいに庵をねめつける。 「その足でどうやって帰るんだ?」 「おまえが癇癪おこしたおかげでこうなったんだ。てめーが車だしゃすむこったろーが」 「断る」 「なにィ?」 「そういきり立つなよ。俺が飽きたら帰してやるさ」 火に油を注ぐようなことを言い残して庵が部屋を出ていく。 (せってー逃げてやるッ!) 一人残された部屋の中で内心吠える京なのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 深夜。 京は少しでも音をたてないように裸足で階段のところまで行き、階下の気配を 探っていた。 照明はすべて落とされていて、寝静まっているようだ。 (俺が思うように動けないだろうと思っているからか…。) ソロリと足を伸ばすとズキンと右の足首に激痛が走る。そのまま動きを止めて 痛みが引くのを待つ。たかだか3,4メートルの距離が数十メートルに思えた。 「……ッ!」 おもわず声をあげそうになるのを慌てて噛み殺す。そして焦る気持ちを抑えながら やっとの思いで一階に足をついた時、すぐ目の前に人影が立ちはだかった。 「その足でよく階段を降りれたもんだな。そのぐらいの元気がでてきたならそろそろ 抱いてもよさそうだ」 「なッ……?!」 京が動くよりも早く、庵は京のみぞおちを軽く付いてよろけた体を抱きかかえると、 京がやっとの思いで降りた階段をあっという間に上がり寝室に入った。力の抜けた 体をベッドに横たえらせ、シャツの前を開きスラックスのジッパーをおろしてそのまま 足から引き抜いた。その際、痛めている足首に布がひっかかったせいで京が正気を 取り戻し、自分を見下ろしている庵と目が合った。 いつもの憎悪の光を湛えた目ではなく、かといって嘲笑にすがめられた目でもない。 (顔を合わせりゃコロす、殺すって言うクセに…なんだっていうんだよ) 真意をはかりかねて戸惑っている間に庵が覆い被さってくる。 「よせっ…いやだ!」 「……」 「いやだ…って言ってんだろーがッ…ただでさえ足が痛てぇってのに!」 胸に手を這わす自分を押しやろうとする京の指に、庵は自分の指を絡めて 握り締めるとシーツに押し付けた。 「我慢しろ。そのぐらいで死にはせん」 「なに〜ッ?! バカ言うな」 庵の下から逃げ出そうとしては引き戻される。 「おまえの協力次第で、そんな痛みなんぞ感じるヒマもないほど良くしてやるさ」 庵は胸ポケットからだした白い錠剤を口に含むと、京の歯列を割り舌を差し込み、 京が吐き出さないよう喉の奥へと押しやり否応なく嚥下させた。 「ゲッ! なに飲ませたんだよ?!」 「なんだと思う?」 庵が意味深な笑みを浮かべて京の脇腹を撫ぜた。 「よせっ……」 スプリングが大きく軋みをたてる。 足の痛みを訴える京を無視し、ベッドの上に膝立ちさせると、触れられることを 頑なに拒もうとする邪魔な両腕ごと背後から抱きすくめた。 「……!」 腰の辺りに否が応でも庵の猛りを感じてか、京がビクリと動きをとめ、みるみる体を 強ばらせていく様子が密着させた肌から伝わってくることに庵は唇の端を 吊り上げた。 「ずいぶんと初々しい反応じゃないか」 笑みを含んだ深みのある声が耳元に落ちる。 「う…うるさい! ヤるならさっさと・・アっ…・ん!」 不意に京が声を呑み込む。庵の挑発に意識が向いた瞬間に、 勃ち上がりかけた 自身を強く握られたせいだ。 「どうした。このぐらいでビクつくこともないだろう? …・・それとも」 「……」 「もう感じてきた、とか?」 黙っていると、捕らえていた京自身を上下に擦り上げて、時折爪先でかすめるように 筋を辿る。京が止めさせようと手を伸ばすが、庵はそれを二の腕でがっちりと 締め付けたまま手先だけを器用に動かし続けた。 「アァ…・・ア」 まるでそこから熱を生み出すかのように全身に熱い痺れが広がってゆく。背後にいる庵 に体をもたせかけ、「これが自分か」と自嘲したくなる程、庵の手淫によがらされていた。 「ンッ…・い…庵ィ…・もう…イカせ・・て…ハッ…・・あうっ!!!」 昇りつめようとしたところで、意地悪く遮られる。 「まだだ」 せつなげな息を漏らす京にのしかかるように体を倒し、獣の体位をとらせると、 庵のもう片方の手がソコを離れ、京の先走りで濡れた中指をしっとりと汗ばむ 京の双丘の割れ目に忍ばせた。 「あ…・嫌だ…・っ!」 最初の抵抗を崩してしまえば侵入は楽なものだった。 全身で押え込みながら、庵だけが知り得た京の敏感な部分に触れる。 「熱い…ァ…ンッ……!!!」 京が切なげな声を漏らしたのが合図。 戒めていた腕を解き、指を名残惜しげにいったん引き抜くと京の体はそのまま シーツの上にくずおれた。 「京…」 庵はゆったりとした動作で、休む間も与えず右肩を掴んで体を仰向かせると両脚の間に 体を入れて、傷めていない脚を持ち上げ肩に乗せる。 覗き込むように顔を近づけてくる庵を 見返す京の眼には勝ち気ないつもの光は なく、熱に浮かされたように艶っぽく潤んでいた。 「もう…気ィすんだかよ…エロヘビ」 かすれた、拗ねたような声音。でもどこか甘い。 「全然。おまえももの足りなさそうだ」 「強引すぎんだよ、おまえは! なんなんだ一体?! 俺はもうイヤだ」 「嘘つきな口だな」 脅威的な殺傷力を持つ手には見えないスラリと長い庵の綺麗な指が京の唇を撫でた。 その指は今しがた京が放った精に濡れていた。 「!!!」 「どうした。おまえが感じた証だろう? 舐めろ」 「………・・ウ・・グッ!! や、だ」 「……まったく、おまえというヤツは」 顔を背けて頑強に拒む様子に、それ以上の強要はしなかったものの、 庵は京の横顔をすがめ見ながら、かわりに胸の尖りになすりつけた。 すでに堅く張り詰めているそれは京の今の状態を如実にあらわしていた。 それを庵に暗に示されたことに満面に朱が浮かぶ。 「!!! 八神ッ…やめろッこのっ…」 「秘め事にそれは無粋だな。名で呼んでもらいたいところだ。この前教えただろう?」 嘆息しつつも目が意地悪く笑っている。 カッとなって体を起こそうとする京の腰をグイと自分に引き寄せた庵は、その双丘を 掴んで割り広げると、反射的に窄まる蕾に自身を突き入れた。 「イッ…・アァッ!!!」 指とはくらべようもない質量と痛みに思わずすがり付く京を庵は強く抱きしめた。 「クウ…っ…・抜けよ・・・ッツ…抜いて・・・・・」 「・・・・・・・・」 「いおり!!」 「そうだ。力を抜いて…・息を吐け…京」 歯を食いしばり耐えようとする京の耳元で暗示のように何度も囁いてやる。 苦しさから逃れようとするゆえか京も必死に庵の言葉に従った。 「・・・・り・・・・・・いおり 」 熱に浮かされたかのように名を呟き漏れだしたすすり泣きに、庵が宥めるように 髪や頬を撫でて軽く触れるだけキスを繰り返した。 「京」 長年相食んできた草薙の血統を絶てという本能が鈍ったワケではないが、庵は京に 「いおり」と呼ばれることで己の中の荒ぶる力が鎮まるらしいコトに気づいた。 体ばかりか心まで引き合うような・・・。 それは決して不快なものではなく、むしろ心地よい。 それを何とよぶのか考えようとまではしないが、無性に京を欲するようになっていた。 どのくらい時間がたったのか…・。 自身をすべて呑み込ませると、自分にしがみついたまま顔を見せようとしない京を 強引に引き離し、顔を覗き込んだ。 「……なんだ…よ」 「もう泣かないのか?」 「な、なな泣くかっ!!」 「そうか」 残念そうに呟いた庵だが、思い直したように 「じゃぁ、動くぞ」 「な…にイイ〜〜〜?!?!」 (…・???) 繋がったままベッドに押し倒されるが、庵はじっと京の姿態に見入ったままである。 そのままでいると最奥に庵自身の脈動をまざまざと感じて、顔 から火が出そうだ。 「こいよ…」 庵の企みなのかはわからないが、視線だけで愛されることに焦れて、根負けしたのは京。 投げ出されていた右足を振り上げ、庵の背中を叩いて行為の再開を促す。 そしてふと気がついた。 (あれ?! 右足って確か…腫れて…・) 顔を上げてクイッと持ち上げた右足を見る。赤みが少し引いている。痛みもない。 「よく効く薬だろう?」 庵がその右足を捕らえ口付ける。 この部屋に連れ込まれてから無理やり飲みこまされた錠剤を思い出す。 (ああアレ…アヤしい薬とかじゃなかったんだ) 「催淫剤だとでも思ったのか?」 自分の考えを見透かしたかのように庵が聞いてくる。 「…・・おまえのやるコトだからな・・アッ!!!」 京の憎まれ口を最後まで聞かずに唐突に庵が動き出す。 「そんなもの使わなくともオレはおまえをイカせられるさ。そうだろう?」 「こっ…・の、ゴーマン野郎!! ンッ」 「そしてオレをイカせられるのもおまえだけだ、京…」 「…アアッ、イオリッ!!!」 しなる京の体を引き寄せ、なおも突き上げると庵は京の中に己の熱を解き放った。 京の奥深くで交じり合うのを願うように強く。 「庵…・」 達する瞬間に視線が合った。不思議な色合いの双眼に埋め尽くしがたい寂寥感が あるような気がして。自分まで切なくなって、その頭を掻き抱いて京は意識を失った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 夜が明けた。 「オレとしてはまだ帰したくないんだが・・」 憮然とした表情で窓枠に腰掛け、海を見ている庵に 「あれだけ好き放題しといてまぁ〜だ言うか、てめーは! 俺は現役高校生なの!! さっさと送りやがれ、ほら」 シャワーを浴び身支度を整えた京が、昨夜のイロケはどこへやらいつもの調子で威張っている。 対して無言の庵。 「……」 その無言の抗議に折れたのか、京がいささか憮然とした表情で言った。 「……わかったよッ。・・・週末に会おう」 「京?」 「再戦といこうぜ」 「…オレが勝ったらおまえを抱くぞ」 今度は京が黙る番だ。しばし庵を睨んでいたが、くるりと踵を返してドア ノブを引いた。 庵がなおもその後ろ姿を凝視しているとピタリと立ち止まり、肩 越しに振り返る。 ニヤッと京が挑発的な笑みを浮かべた。 「おう。ソノ気にさせてみやがれ! エロヘビ」 パタンと音をたててドアは閉じられ。 一人残された部屋の中で、知らずしらずのうちに庵の口に穏やかな笑みが浮かんだ。 戻 る |
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