‖ 王様ゲーム ‖




眠ってしまうのが惜しく思えるほどの見事な満月が空にかかる晩。
  
その煌々とした月明かりに誘われたとでもいおうか、ついフラリと外に出て歩いてるうち、

申し合わせたわけでもないのに八神と出会ってしまった。

月を添わせたこの男の立ち姿はいつも京の肌をザワめかせる。
   
 「よぉ八神、おまえも月夜の散歩? 偶然だよな? それともこれも宿縁ってやつ?」

 「くだらんことを持ち出すな。だがこうして会ったからには」

 八神がポケットに入れていた両手をゆっくりと抜き出した。

 それを見て京が平然と物騒な言葉の先を続ける。

 「コロスってか?」

 「無論だ」

 「あいかわらずな奴。てめーには風情を楽しむって余裕がないのかねぇ」

 「したさ。そして今宵のこの玲瓏たる満月の輝きはこうして互いを引き合わす為だった んだといたく感動した」

 「・・・・・・・・・・・」

 「というところでどうだ? ポエマー」

 「うっわー! 八神にはチョー似合わねぇセリフ」

 「フン。だったらつべこべ言わずにさっさと構えろ京」


そんな憎まれ口をききながら静かに熱く闘気を漲らせていった2人だったが、あいにくと
 
其処は拳や、まして炎を交わす場所としてはあまりに不向きで。



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場所を移した先はそこから少々歩かなければならなかったが、障害物もなければ今時 分は人気もない、

おあつらえむきの市民スポーツ広場。

ここならば多少派手な音をたてても問題なく、かつ間合いもとり易い。

そうまでして八神の要求に応えたのは自分の中にも八神を前にしてまた沸き立つもの があったからだ。

それはひと暴れでもしなければおさまりそうもない。

(なんだ? この気分。満ち月にコイツと会ってどっか狂わされちまったかな)

なにしろまだなにをしたワケでもないのにやたらと血が騒ぐ。

そんな状態の中、京はふとした思いつきをよく考えもしないうちに口に出していた。

 「八神、<王様ゲーム>って知ってるか?」

 「・・・・あぁ。それがどうした?」

 「どうせなら特典をつけようぜ。<王様ゲーム>っていえばグループ内で『王様』って
 
書かれた棒を引いた奴が王になって、グループの誰かが持つ番号をあげて好き勝手に命 令できる

権利がもらえるだろ?で、これをちょいとアレンジしてだなー…、今からの勝 負では相手の背中を

地に着けて「負け」を宣言させた方が王様だ。当然負けたほうは王 に一夜限り従う者とする。あ、

念のため言っとくがコロシはなしだかんな!」

 「ほぅ。なにを言い出すかと思えば。オレが、いや、死ぬのが恐くなったのか?」

 「バーッカ! ンなワケあるか。それに俺達の因縁にホントのカタつけんのに、この程度の場所じゃ役不足だって

んだ。これは単なるゲーム。で、ゲームときたら賞金なり賞品な り特権なりがつきもんだからな。勝てば王様、負け

れば従者。王は従者に思う侭に命令 を、従者は王に服従を、ってみたいなモンを付けたらどうかなと思ったワケ」

 「・・・・・」

 「どうする、八神?」

 

 そう言って京が不敵な笑顔を見せると

 

 「いいだろう。だがそれで後悔することになってもしらんからな、京?」

 

 つまらなさそうに、けれどこの機会を蹴るつもりは毛頭ない八神は手の中で紫炎をくゆらせた。

 それが了承の合図。

 

 「いくぜ八神」

 「こい、京」



 こうして始まった闘いは――――。
  
 月が味方したのか、勝者への特典がよほど魅力的だったのか。

 めったやたらに技が冴えた八神が断然優位の勝負となってしまった。
 
 「・・・・・チッ!」
 
 躱しきれなかった八神の爪先が頬を切る。

 血が滲んだらしい傷口に手を当てる間もなく思いきり足を払われた。

 視界の中で満月がブれる。

 すかさず体勢を立て直そうとしたところへ八神自身が飛び掛かってきた。

 勢いのついた重みを受けて仰向けに倒れ込むと両手首を掴まれ、

 左右の地面に張りつけるように押え込まれる。

 京が喘いだ。

 息をかき乱されている上、痛みを訴えているところへ八神が故意に体重をかけてきたからだ。

 あっけない幕切れ。

 八神は唇の端を笑いに歪めた。
 
 「勝負あったな。オレの勝ちだ」

 「ち、く、しょ―っ!それは俺の持ちゼリフ…なぁ、やっぱあの…特典ナシに…して」


 「反故は認めん」

 当然ながらムシのいい申し出は却下される。
 
 「な、なんだよなんだよ! いやにノッてきてねぇ? 八神」

 「おまえを好き勝手できるのかと思ったらどうにも楽しくなってきてな。さて、言って
 
 もらおうか、『負けた』と」 
 
 「・・・・・・・」

 「おまえが言い出したことだぞ? 地に背中をつけたそのままで潔く負けを宣言しろ」

 「・・・・・・・・・・」

 「ガキかおまえは」

 「〜〜〜〜〜〜っ!!」

 横を向いて押し黙ってしまった京の顔に「こんなハズじゃなかった…」という色があ

 りありと浮かぶ。
 
 八神にはその様子も楽しいらしい。ニヤリと見下ろしながらなおも京に屈辱の言葉を

 促していたが、このままではラチがあかないとみたのか行動にでた。

 「言わないつもりか。そっちがそのつもりならオレにも考えがある」

 「・・・・・・・・・・・・・? ・・・・・っ!!」

 次の瞬間、京はみぞおちに拳を叩き込まれ息を詰まらせた。

 気を失うほどではなかったが、反撃する気力を奪うには十分な強さだった。
 
 その隙に八神はというと京のシャツをたくし上げジッパーを下げて改めて圧し掛かる。
  
 「な、なに考えてんだッ! こんなとこで・・・・ッ!」
 
  京が慌てて身をもがかせるのをギリリと押え込みながらその顔に自分の顔を近づけて。
 
 「卑怯者にはそれ相応の扱いがある。これからどうされるかおしえてやろうか?」
 
 八神が笑みを張りつかせたままの唇を京の耳元に寄せ、これから与えるという扱いの

 内容を囁く間、京の顔は赤くなったりわずかながらも青くなったりしていた。 

 聞き終えた後の京は堅く唇を引き結びぎゅっと目を閉じていたが、自分の覚悟を確認
 
 するかのようにもう一度顔を覗き込んでくる八神の気配を感じてか、ようやく 

 「・・・・け・・・た・・」

 「聞こえんぞ」

 「〜〜〜くっそ〜〜〜っ! 負けたっつってんだよ、不覚にも! 今夜だけはな!」

  ヤケっぱちで負けん気まじりの敗北宣言をするに至ったのであった。

 「・・・・まぁいい」
 
 そうは言いつつもわずかに不満げな顔をしているのは京の言葉にか、それとも実行で

 きなかった行為への未練なのかはたぶん当人にさえ謎である。 

 こうして京の口からこの勝負における敗北宣言がでたことにより、王の座は八神が手

 にすることとなった。

 「さぁ、王が自ら城に案内してやる。ついてこい従者」

 「・・・・・・・・・・」



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かりそめの王に引かれてやって来た城は、この男が時折使うのだというペントハウス。

そこでもカウチにゆったりと腰を下ろした八神から早速、これより王の意のままに従 う証としてまずは

手の甲に接吻してみせろというイジワルな命令をされたものの、やは り渋る態度をとった京は罰として、

天井の梁に掛けた皮紐に緩くではあるが吊られるよう な姿勢を強いられることとなった。

そうされてからカレコレ三十分は経っている。

今になって思えば、なぜあの時あんなことを言い出したのか?と内心後悔することし きりの京だった。
 
そこへ八神が戻って来た。

 「王になってたらオレに何をさせたかった? なり損ねて残念だったな」

 「・・・・・・・・」

 「どうせ勝って王になることばかり思ってたんだろう? どこからその自信が沸いて きたんだか」

 「ウッセーよ! いつまでもネチネチ言ってんな! んで、縛ってどうするつもりだ?  ゴーモン?」
 
 「どうかな。オレはおまえが思っている以上にひどい男かもしれんぞ?」
  
涼しい顔をしてそんなことを言うこの男が憎らしい。
 
 「そんな気がひしひしとしてきたぜ」
 
 「気づくのが遅すぎたな」

 「今ならまだ冗談ですませてやる。とにかくこれ外せ」

 京が特殊な結び方で戒められた両手首を庵の目の前にかざした。が、八神は無表情に 一瞥をくれただけ。

 「"王"に対する態度を改めたら考えてやる。おまえは今、敗者でオレの"従者"だろうが」
 
 「なに気分だしてんだ、てめー」

バシッ。

京の頬に軽い平手が飛んだ。

 「・・・・・・ッツ・・・!」

 「口のきき方にも気をつけるんだな、従者。おまえが言い出したお遊びはまだ始まった ばかりだぞ従者」

 「・・・・・・・・従者、従者ってイヤミっぽく何度も言うな」

 「従者だから仕方なかろう」

 「・・・・・・」

 「それよりお楽しみの前に喉を潤しておくか。おまえも喉が渇いてるだろう?」

 「・・・・・・」

そのとおりだ。たしかに喉は渇いている。 だが、京は心とはうらはらに八神を睨んだまま首を振った。

どうせ「くれ」とか言えばまた口の利き方がなっていない、とか言われてまた平手が とんできそうである。

さっきの広場での行為といい、こいつはカラダでわからせようと するタイプのような気がする。かといって

八神に向かって「ください」なんてお願い言 葉をやっぱり言いたくない。

反面それについてまたどんな手を使ってくるか想像するだにオソロシイ〜ッ! と思っ てしまうのも事実。

(嗚呼、俺のバカ・・・)

呪うべくはこんな"特典"を思いつき、提案してしまった自分の浅はかさか。

今はただ、この夜が終わるのを待つばかり。
 
 「・・・・・」
 
そんな京の内なるボヤきを知ってか知らずか、八神は上機嫌な様子で手にしていた アイソトニック飲料を

口に含むと、京にグッと顔を近づけた。
 
 「!!」
  
どういうワケかこの時、
 
京はその八神の表情と目を見てこの男の言わんとしていることを悟ってしまった。

 "渇きを癒したければ自ら乞い求めろ"と言っているのだ。この男は。

意識した瞬間徐々に強くなっていく渇きとプライドが攻めぎあう。
 
その前でゴクリ、と八神の喉がワザと音を立てるように動いた。

 「強情を張ると今夜はほんとに飲めなくなる。いいんだな? 京」
 
 「・・・・まったくなんてイヤな"王様"だよ」

 「権力者とはおおかたそういうものだ。そんな無駄口叩いてる間に水が無くなるぞ?
 
欲しいんだろう? オレはすがってくる者を無下にはせん。たとえおまえでもな」

そう言った八神は京を横目に喉の奥で笑うと、ふたたびアイソトニックを含んだ。

 「・・・・・・」

ほんとに"王様"として君臨するつもりらしい。 このぶんだと時間稼ぎも通用しなさそうだ。

なにより言いだしっぺは自分であるからこれはもうやるしかないと自分に言い聞か せて

京は八神に手を伸ばした。

 「こうもインケンな王様じゃ従者は辛いぜ。夜が明けたら雪辱戦だからな!」
 
そうがなると京は八神の髪を両腕で掴んで自分に引き寄せ、自ら荒々しく唇を重ねた。

が、八神の意地悪でその口に含んでいる飲料を思うように奪わしてもらえない。

 「なんでだ・・よ・・っ」

 「ヘタクソ」

京から求めてくるように挑発しておきながら与えようとせず、それどころか水が飲めないのは

おまえの拙さのせいだと楽しげにあざ笑った八神だったが・・・。
 
 「おっ・・・と」 
 
抗議するより先に脱力してしまい、両腕を皮紐にとられたままズルリとその場に崩れ かけた

京の襟元を、咄嗟に片手でわし掴んで引き上げてやる。

そしてそのまま顔を上向かせると、みたび口に含んだアイソトニックを今度は八神から 唇を重ねて含ませてやった。

 「ん・・・ん」

京の喉が鳴り、表情が和らいでいくのを見ると八神は襟を掴む手の力を緩めた。
 
すると意外にも京はまだ足りないとばかりに八神の首に腕を回して自分に引き寄せようとする。

それに応じて八神はふたたび唇を重ねその舌を絡め取る。

なにか言いたげに首を振るのに気づき離してやると、 

 「違う・・・俺が欲しいのはみず・・・・な・の・・もっと・・・っ」

 「まったく。貴様のほうはずいぶん生意気な従者だな。服従するんじゃなかったか?」

 「王になって、俺に命令ができるっていうそうそうない幸運を得ただけでもヨシとしやがれ。

俺はてめーが王としてどれほどの力量持ってるか試してやってんだ。悔しかったらさすがの

俺も思わず従いたくなるような王様っぷりを見せてみろよ」
 
己がいっきに放ったその言葉がどのようなカタチで自身に返ってくるか、またも京はわかっていないようで。

かたやそんなコトを言われた八神はというと、獲物を捕捉した獣のごとき目をキラリと閃かせ、

あやしい笑みを浮かべて告げた。
 
 「いいだろう。オレに仕える従者にふさわしくなるようにみっちり躾てやるまでだ」

 「し、しつけ?!?!」

 「だがあいにく時間がない。躾のステップ、大幅に飛ばすからそのつもりでいろ」

 「な、なんだよ躾って?! 冗談キツイぜ・・・や、八神? おい、なんとか言えよ」

 「王様、なにをなさいます? とかぐらい言って気分を盛り上げてみせろ従者」
 
 「! だ〜か〜らっ、従者って言うな〜っ!! あ、やめろって・・・あ? ああっ?」
 
八神が腕を伸ばし、壁についた照明スイッチに触れると室内をぼんやりと灯していたダウンライトが一斉に落ちた。
  
やがてそんな暗がりの中で京のやや上ずり気味の声と八神の忍び笑いが交差しだした。
 
 「あ、あっ! やっ、そこ・ズルい、ぜ・・まず腕ほどけ・やめ・・アッ・ァッだ・め」
 
 「王より先にイクのは許さんからな」
 
 「・・・ちがう。そこじゃ・・・なくて・・・くっ・・・ぅ・・」
 
 「やれやれ。これではどちらが王なのかわからんな」

苦笑しつつ、けれど八神は京が望むところに指を、唇を這わしてやっているようで。


傾きかけた月明かりが差しこむ部屋の中で絶え間なく洩れていた従者の負けん気な声はいつしか甘い吐息
 
へと変えられていき、それはかりそめの王の胸を濡らし、その心を魅了するものとなっていったのであった。   



     
                        ++ FIN ++




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‖ あとがき ‖


仲がいいんだか悪いんだか〜…。いおりん、ちょっとイジメっこでーす。
とか思いきや最後は優しい王様になってた模様。暗がりの中で(笑)。

これ書く時はなんか京に「庵」って呼ばせるよりも「八神」って呼ばせたほうがしっくりきた
ので終始「八神」で。
でも庵はいかなる時もやっぱり「京」なんだな。(憎悪してる相手をなぜに名で呼ぶか?
私の八神庵にいだく永遠のミステリー。ああうっとり。)
「草薙め!」なんつってたらそれはきっとニセ者、クローンです(笑)。
王様立場になった庵が「泣け!叫べ!そしてオレにかしずけ!京!」(プッ)とかなんとか
支配者ぶりを大発揮する話にでもならんか?と思いつつ書き出してたんだけど全然そん
なトコろに及ばずあえなく撃沈。強引な話のもっていきかただしネ☆(いつもか。:自爆)
あら?どこかで読んだシチュエーション、とか感じてもそのまま流してお読みください。。
どうも月と庵は切り離せないようで、気が付くとこんな感じになっちゃうのでス☆