| 「夏SS 八神サンちの家庭の事情 怪談編 」 お盆も近いある夏の夜。 八神家には、隣町に住む緋々稀の友達、矢吹家の長男・真八とその妹の華がお泊りに来ていた。 食後、子供達がせがんだのは「怪談話」。そしてせがまれたのは庵だ。 とはいえ、そのテの話にまったく興味のない庵には聞き覚えたネタはなく、なにを語れというのか?と、 庵はキッチンで人数分のジュースを入れていた京に救いの手を求めてみたのだが、 京は意外そうな顔をしただけで。 「ンなことないだろ? なんか八神ンちにはさ、オドロオドロした怪奇話の十や二十はありそうじゃん?」 「…ものすごい偏見だな、それは」 「そおかぁ?」 憮然とする庵を呑気な顔で眺めながら、京はつまみ食いをしつつ、ジュースと菓子をのせた トレイを持って庵の前を通り過ぎた。 「まっ、よぉぉっく思い出してみろよ。何かひとつぐらいはあんだろ?」 「…………」 壁に凭れ、折り曲げたひとさし指を唇に当てての考えポーズ。 過ぎ去った日々の記憶をたぐりだしたらしい様子の庵に、京はクスリと笑って声をかけた。 「んじゃ、リビングでひーすけ達と待ってるかんな」 その10分後、リビングに庵再登場。 ―さらに15分後。 家中の照明一切が消され、唯一の明かりは居間のテーブル中央に置かれた一本の白いローソク。 居間の冷房は演出効果を高める為にいつもより気温を5度下げてある。 庵と向かい合うように座っていた京と子供たちは、ぎゅっと身を寄せ合うようにして庵の口から 語られる「八神家にまつわる不思議話」に、慄きつつもじっと耳を傾けていた。 皆、泣きもぐずりもせず異様なまで真剣に「八神家怪奇の世界」に嵌まり込んでいるのだ。 膝の上で両手を組み、少し前かがみにローソクの火を見据えたまま低く静かに語られる庵の話は 子供達ばかりか、大人の京でさえ背筋を凍らせた。やがて…。 「………これで、オレの話は終いだ」 庵が低く囁くように終りを告げ、ローソクの火を吹き消した。 「うわーっ! 消すなよー、庵!」 「キャッ!」 「嫌ですよぉもう〜!」 呪縛が解けたかのように、暗闇の中で一斉に騒ぎ出す聞き手サイド。月は今、ぶ厚い雲間に隠れて いるせいで外からの明かりも乏しい。しかし声を出して少しは気が紛れたのか、子供達は悲鳴から 元気なはしゃぎ声に変わっている。その気配を感じ取った京が電気をつけてやろうとソファー から立ち上がって、ソロリソロリと庵の座るソファーの脇を通った。途端、 「京」 呼び止められた。 「ん? なんだよ? ……おっと!」 突然頌を掴まれてグイと引かれ、強引にその膝の上に座らされたかと思うと庵に抱き込まれる。 「おい?」 (しっ……おまえはこのまま) 子供達に聞こえないように京の耳に唇を押し当て囁くと、庵は後ろ抱きにした京のTシャツに手を 差し入れて脇腹や腹筋をまさぐった。 京が声を抑えてくすぐったそうに身を捩る。やはり子供がいる手前、憚ってしまうらしい。そうと 察した庵は、 「さて、子供達はもうお休みの時間だ。このまま闇に紛れて静かに二階の部屋に戻ったら、ドア をしっかり閉めてタオルケットをちゃんとかけて寝ること。奴等は八神の血に敏感だからもしか すると話題にされたこともあってここにも来るかもしれん。だから奴等に攫われんようにな」 やんわりとだが、低く響く声で物騒なことを付け加えた。 すると華が半ベソな声をあげた。 「ええっ! そんなのこわいよぉ〜やだ〜お兄ちゃん! 華、もう帰る〜〜〜」 「だだだ、大丈夫だ!……俺も恐いけど」 矢吹兄妹が笑って軽く聞き流せないのは、やはりここが八神庵家だからだろう。 「イオリ、やり過ぎ。意地悪はやめてよ」 「そうだゾ、庵。おチビ達をそんなに恐がらせてどうすんだ」 京が笑いまじりに庵を諌めると 「なに、草薙の血を引いている緋々稀がそばにいれば心配いらん。だから緋々稀、二人の面倒は まかせたぞ」 「!」 「ははーん……だってよ。じゃぁそういうことで。おやすみなー、ひーすけ、シンパチ、華。 明日は冷やし中華作ってやるぞー」 「……うん。じゃぁ…おやすみ」 緋々稀には大好きな京が庵の膝の上にいることは暗い視野の中にあってもしっかりと捉えていた。 暗闇はそのままに、子供達の恐怖心をそっと煽って二階の子供部屋に戻らせ、ここに二人きりに なろうとしている庵の企みも明白。けれどそんな庵の企みに、京もまんざらではなさそうときて は邪魔できない…ということで、わずかの沈黙にささやかな不服を込めたのみの緋々稀であった。 子供達が二階へ上り、緋々稀の部屋に入った頃を見計らいながら、京は自分のTシャツの中から あやしく蠢く庵の手を追い出すと、庵に向き直って膝を跨ぐように座り直した。 「んっふっふー! 庵ぃ」 「なんだそのニヤケ笑いは?」 天窓からはようやく雲が通り過ぎていったらしく、満月が顔を覗かせていた。 室内には徐々に月明かりが差し込みはじめ、うっすらと二人の輪郭を浮かび上がらせている。 「すぐにイケナイことを思いつくんだな」 「淋しがりやなんだ。それに少し怖がりでな」 「はぁー? おまえが? 信じらんねーぞ、それ」 シシシと忍び笑いを洩らして、京は庵の、その白いシャツの襟を広げるように両手で掴み上げた。 覗いた肌に啄ばむようなキスを幾つか落としたあと、顔を上げてニッコリと庵の瞳を覗き込む。 「だから?」 「あんな話をした後ではしばらく眠れそうにない。今夜はおまえの熱の中に匿ってもらおうかと 思ってな」 そう言って庵もまたひそりと笑い、京を跨がせたまま身をずらしてその身を晒す格好をとると、 Tシャツを脱ぐ京のスラックスに指をかけた。 この数時間のち、尿意を堪えきれなかった真八がおそるおそる階下に降りてくる。 そして一階のどこからか洩れいずる、微かなすすり泣きにも似た声を耳にしてしまった真八は おおいに恐怖して命からがらトイレに立て篭もり、そこで朝を迎えるハメになるのだが…。 そんなことになろうとは思いもつかない、お熱い一夜を過ごす二人なのだった。 すすり泣きにも似た声。 それは、庵の愛情を一身に受ける京の声に他ならない。 <END> |
| たしか2002年の夏場に期間限定TOPSSとしてUPしたお話。 ネタは「八神サンちの家庭の事情」から。 八神サンちは意外に微々にひそかに人気あるような気がします。(自分調べ:笑)。 私自身、まだ時々書きたくなるネタなので、この一家はまだでてきそうです。 ※ちなみに真八と華のパパは言うまでもないかもしれんが、矢吹真吾さんね☆ パソがクラッシュしたせいで、そしてなにより面倒くさがりなアタクシが ちゃんと保存をしていなかったせいで、当時WEB上にUPしていた ファイルは残っておりませんでした(ちーん☆)が、このたびFDの整理 中に書きかけがあったのを見つけたので、最後のほうはうろ覚えの 記憶を頼りに書き足してみました。なので以前の文章とは多少違います。 でもたしかこんな感じじゃなかったかなぁ? どうもweb上に置いといたほうが安全そうなので再UPナリ。/20020511 戻 る |