『華堕トシ』
怠惰な夜。
庵は京からの「たまには奢るぜ?」という殊勝な誘いに応じて外出した。
マンションから15分程度歩いたところにある中華飯店で待ち合わせて夕食を摂ったその帰り道。
肩を並べて歩いていた京が不意に立ち止まった。
数歩進みかけた庵も立ち止まって、怪訝な顔をして京を振り返る。
「どうした?」
「んー・・・?」
京は夜空を仰いでクン、と鼻を鳴らすと、なにを思ったか庵の顔を見てニッと笑った。
「なぁ庵、せっかくだから夜桜見物してこうぜ」
「どうせおまえは"花よりだんご"だろう?」
「あ、やっぱバレたか」
見抜かれることは承知の上だったらしく、機嫌を損ねた様子はない。
「それもある。けど、オレも日本人。桜を愛でたい気分にだってなるんだよ」
「ポエマーだしな」
「そうそう」
上機嫌な京を見つめてニヤリと笑うと、庵はその腰に手を回し、自分に引きつけて耳元で囁いた。
「夜桜もいいが、俺としては早くおまえを愛でたい気分になってるんだがな」
「・・・・・」
しかし―。
今の京にそんな誘いの言葉は聞き入れられるわけはなく、庵はグイと腕を引かれて
ライトアップされた桜の園へと向かうこととなったのだった。
昼といわず夜といわず、この時期桜の木の下はどこも人だらけで賑やかなことこの上ない。
すでに酒が入ってベロンベロンな花見客の一人からちゃっかり2人分のカップ酒を分けて
もらった京もまた、頬をほんのり赤く染めて早くも酔いかけている。このあとのお楽しみ
がおあづけになるのは必至だなと内心嘆息しながら、今度は庵が京の腕を引いて帰途についた。
道すがら、京が言う。
「皆とワイワイやるのもそりゃ楽しいけどさ、でも静かに桜の花びらが降る中を歩くって
のもオツだよな。このへんじゃムリだけど」
「・・・・・・・・」
公園を後にして歩き出した京は木の下で掻き集めてきた薄桃色の花びらを少しずつポケット
から掴み出しては頭上高く放ち、それは京の髪や肩にひっかかってはその足元に落ちていく。
無邪気な笑みを浮かべて花びらを振り撒く京の姿を庵は黙って眺めていた。
そして翌日。
幾分日も落ちた頃。
和風の重厚な門とそこに掛けられた表札を前に、京はア然として傍らの庵に尋ねた。
「おい・・・ここってもしかしなくても、・・・おまえン家・・・・・」
「そうだ。だが本宅ではないから、気楽にしていろ」
なんと―。
街を抜け、庵が運転する漆黒のユーノスに乗せられて辿り着いた先は、八神家が所有する
邸宅だった。
「いったいどういうつもりだよ?」
「桜を見せてやると言っただろうが」
「だからってなんで八神ン家になるかな〜〜〜〜☆▲□★」
八神家に携わる人間がどこまで「草薙京」の顔を知っているのかは定かでないが、草薙に
対してまだ積年のわだかまりを残している一族が住まう場所に来て、のほほんとくつろげる
ほど、自分の神経は太くはない、と京は思ったりした。その傍らでは、
「桜を一人占めしたいのだろう? ここはうってつけの場所だ」
庵が気にも留めていない様子で、立ち尽くしている京を中へと促す。
京はそんな庵に頼もしささえ感じて、思わず
「八神の御当主様、ちゃんと守ってね」
と、ひきつり笑いをしながらその肩にポンと手を掛けて言った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
月が格別に美しい晩だった。
心配した八神家の血に連なるような人物はおらず、使用人達の態度も丁寧なことから、
夕餉を終える頃にはすっかり肩の力を抜いていた京である。庵と入れ替わるように風呂を
でると、用意されていた浴衣に袖を通し、寝所としてあてがわれた離れに向かった。
だが途中、風に巻き上げられて京の元へと舞い降りた桜の花びらに誘われるように、日が
落ちる前に案内してもらった桜の木々のもとへ足を向ける。
庭園の奥深くには数十本に及ぶ桜木が立ち並んでいて、それらは夜風に揺らされるたび、
雪のように花を散らしていた。
「うわ。すっげーキレイだな〜」
宵闇の中でみる桜は昼とはまた雰囲気が違う。昼間も見たが、樹齢も相当なものらしい
あの艶やかな色合いをしたしだれ桜はまた特に・・・。
「・・・・お?」
ふと、足元に目をやれば一面薄桃色の絨毯。
京は草履を脱ぐと時間が経つのも忘れて、敷き詰めたような花びらの上を歩いてその感触を楽しんだ。
「京」
名を呼ばれて振り返ると、自分と同じ濃紺の浴衣の上に紫の羽織を羽織った庵が近づいてくるところだった。
「部屋にいないと思ったら、やはりここにいたか」
目の前に立った庵に京が手を伸ばして髪に触れる。
「・・・・・庵、ちょっと屈んでみな」
「なんだ?」
「髪に桜の花びらがいっぱいくっついてる・・・と思ったらまだ生乾きじゃんか。ちゃんと乾かせよ」
「面倒だ」
「ちゃんと髪乾かしとかねーと湯冷めしちまうぜ」
「おまえこそ、素足でどうしたんだ?」
「ほら、ここ。花びらの絨毯みたいだろ。こういうところ裸足で歩いてみたらどんな感じかなーっと思ってさ。
冷たくてしっとりしてるっていうか、柔らかいっていうか、とにかくすっげー気持ちイイんだ。
庵も裸足になってみれば?」
そう言いながらまた歩き出そうとする京の腕を掴まえて庵が囁く。
「お気に召したようだな。なんなら今宵はここを褥にするか?」
「外で寝るにはまだ早すぎるって・・・・・・あっ!」
腰にスルリと回された庵の両腕に抱きすくめられるのを笑って躱そうとした京だが、さら
に続く悪戯な手の動きに狼狽した。
「ちょッ・・・と待て・・・・・っ・・それは・ヤバいッ・・・・って」
「ここが八神の家だからか?」
楽しげに喉の奥でクククと笑いながら、庵は京の浴衣の裾を割って剥き出しになった太腿を撫で上げていくと
京自身を捕らえて、逃れようとする体の動きを止めさせた。
「ウ・・・クッ」
緩急をつけて擦り、先走りが滲みはじめるとそれに触れるのはそこそこに、手は形を確かめるように
双丘をなぞると、その奥に秘められた蕾を夜気に晒した。
「や・・ぁっ・・・・」
体を折ろうとする京をそばのしだれ桜の木に手をかけさせて立たせると、脚を開かせて
先程の先走りに濡らした指を、散らされるのを拒むように窄まる蕾に押し当てる。
「庵っ、やだ・・・」
「りきむなよ」
「・・・・ンっ・・ぁ・・あぁ!」
スラリと長い指は絶対の強さで頑なな蕾を開かせてしまった。
「ゥンッ・・・ッ、イッ・・・・無理・・だッ」
京が胸を反らせて吐きだす熱っぽい息が届いたかのように、桜がはらはらと2人の上に花を散らす。
「まだ滑りが足らんな。京、イイところをおしえてくれるか?」
「・・・・ぜってー・・・おしえねー・・・・」
非難めいた表情を浮かべて振り返る京に庵は少し意地悪そうに目を眇めると、小さく笑って見せた。
「そうか。だがすぐにわかる」
言葉どおり、庵は中で指を折って角度を変えながらゆるゆると蠢かせていく。
ほどなくして、しっとりと汗ばみはじめた京の体が、一瞬ブルリと震えたのを見逃さなかった。
「ふ・・・ぁっ・・やぁ・っ・アアッ・・・・・!!」
執拗にその一点を責め立てられると、触れられもしないのに京の雄は京が軽い屈辱を覚えるほどに
あっさりとエレクトした。
「京、後ろだけでも十分感じるようになったじゃないか」
「・・・・・・も・・放せ・・よ」
「なにを言ってる。お楽しみはこれからだぞ。来い」
「庵!!」
庵は昂ぶる自身に触れて鎮めようとした京の手に自分の指を絡めて引き離すと、
幾重にも積もった花びらの上にその四肢をつかせて、裾を捲り上げた。
「よせッ・・庵、誰かに見られたら・・っ!」
「人払いはしてある」
「だからって・・こんなッ」
「いつまでも駄々をこねるな」
逃れようとする京の腰を引き戻すと庵は己の前をくつろげ、
普段に比べれば性急に綻ばせた蕾に雄身を突き入れた。
「・・・・・ゥッ・・・・ゥゥん・・・」
その猛々しさに思考はとび、中を灼熱で支配される。
この夜の庵は京の昂ぶりには最初触れただけで、それ以降は触れないどころか
ならば自分でと、京がのぼりつめようとして触ることさえ許さなかった。
抜き差しする動きが早まる中、いきなり奥深く体を繋がれて庵の精をその最奥に
叩きつけられた瞬間、視界が白銀にスパークして京はくず折れた。
忍び寄ってくる眠気に意識を委ねようとした時―。
まだ自分の中に萎えた雄身を残したままの庵がなにか呟いている。
なんとなく耳をそばだてた。
「京をこのままここに閉じ込めろというのか?」
(誰か・・・いる?)
弛緩した体を、背から尻へとまさぐるように撫でられるのを朧げに感じた。艶めかしい動きだ。
「クックック・・・。草薙の当主を性奴にでも堕としめて囲うのもまた一興か」
(誰と、話してるんだ?)
独り言でもないらしいが、妙なことに相手の声が聞こえない。
「さぁ―・・・。どうしようか、京?」
耳にかかる庵の息。
柔らかく自分の体を受け止める花びらの感触と、背に覆い被さってきた庵の重みを遠くに
心地よく感じながら、そこで京の意識は途切れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・・・・・ン・・・ン?」
時折肌を掠めるものにくすぐったさを感じて目を開ける。
まず目に入ったのは開け放った障子の外から射し込む朝の光。次に真横で片膝をたてて座っている庵だった。
すでに黒シャツとスラックスに着替えている庵のその手の中には桜の花びらが
零れんばかりにのっていて、もう片方の手でそれを掴んでは横たわる京に放っていたのだ。
その傍らに置かれた竹籠の中身もどうやら花びららしい。
しかし、楽しんでやっているワケではなさそうだというのは表情で分かる。
「なにしてんだ、てめーは?」
「おまえが目を覚ますまでどのぐらい積もるか試してたんだ」
「ああ〜?」
京がそっと体を起こすと一糸まとわぬ肌を滑り落ちて下肢を覆う薄桃色の花びらたち。
「俺がおまえの肌に咲かせた花たちもよく色づいているぞ」
「え? ああ〜ッ、いつのまに! いーおーりぃ〜〜〜〜〜」
よくよく見れば胸といわず腹といわずしばらく消えない赤い花痕が無数に残されている。
京の睨みを受けた庵はというと・・・、
「おまえが気を失っている間にここに運んで―・・・」
そう言いつつ体を伸ばすと京の肩を押してまた布団に横たえさせた。
そして京が身を起こすより早く足を割り広げるとその付け根に唇をあてて、京が小さく声を
あげるほど強く吸い上げる。
「こうして、な」
「・・・・・この!」
ニヤリと覗き込んでくる庵の顔に、昨夜のことも含めて悪態のひとつでもついてやろうと
口を開きかけた京は、だがすぐに小さくうめいて目を閉じた。
「〜◎▲◆☆〜〜〜〜ッ!!」
「零れたんだろうが?」
「う、うるさい! 朝っぱらからその淫ピな笑い方はよせ」
足元にあった浴衣を見つけると慌てて手繰り寄せて下肢を庵の視線から隠す。
そう。身じろいだ拍子に昨夜体の奥に注がれた精が流れでてきてしまったのだ。
「これは生まれつきだ。ケチをつけるな。・・・おい」
「嫌だ。さわるな! あ」
体の下から抜け出そうとする京の体を引き戻して圧し掛かる。
ついでに浴衣も剥いで部屋の外へ放り投げてしまう庵だった。
「なんだよもう。ここに来たのは桜を見せてくれるためだったんだろ?」
「そのつもりだったんだが・・・ちょっとした下心もあってな。それに昨日あれだけ見ておいて、
しかも花弁の柔らかさまで肌で味わったならもう十分だろう? 今日はこの部屋からは出さん」
「・・・オレをここに閉じ込める気かよ?」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
表情を消して、瞬きもせずに自分を凝視してくる琥珀色の双眼に気おされて京が押し黙る。
「俺が恐いのか?」
視線はそのまま、庵はクセのない漆黒の髪を指に絡ませると唇を寄せた。
無意識にゴクリと唾を飲みこんで庵の次の言葉を待っていると、急に庵が吹き出した。
「・・・・?!?!」
いっきに解けた緊迫感に戸惑っている京に、庵は啄ばむような口づけをひとつ落とすと
ゴロリと京の傍らに横ばいになった。
「母屋に行ったらこうるさい奴等が来ててな」
「・・・・・・・は?」
「八神家ご一行様だ」
「うそ・・・ッ」
「姿を見られるなよ、京。見つかったら嬲られた揚げ句にあの桜の下に埋められるぞ」
「ううっ。イヤな一族。おまえ当主だろう! なんで知らないんだよ?」
「花見は盛りの時期にとうに終えたと思っていたんで予想外だった。ま、そういうワケも
あることだ。今日は俺の花見に付き合ってもらおう」
「・・・それって、もしかして・・・・・」
「当然、おまえのカラダで」
その言葉に京の体の奥でおさまっていたはずの疼きがよみがえる。
庵はニヤリと唇の端を吊り上げると、京の胸にことさら強くつけた赤い花痕を指先で突いた。
「おまえは俺が咲かせて散らせる華だ。誰にも触れさせん」
昨夜、2人の情事にさんざん掻き乱された花床は、すでに新たな花弁に覆われて痕跡を留めていない。
風もないところで、ひときわ艶やかな赤に色づいたあのしだれ桜の枝が揺れた。
【終】
----------------------------------------------------------------------
■今ひとつエロちっくにならんかったですが・・・。
ポイントは「着物えっち」(笑)。裾の合わせ目からとか、裾を捲り上げてのえっち
にエロ心くすぐられるのはタワクシだけかしら?
戻 る